公益財団法人 日本野鳥の会

プレスリリース 2006.05.26-2

福井県あわら市・北潟湖西岸の風力発電施設建設計画に対して申し入れを行いました

2006.5.26

(財)日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博 会員・サポーター数5万2千人)、日本野鳥の会福井県支部、同石川支部は、福井県あわら市に計画されている風力発電施設の建設計画に対して、生態系保全の観点から事業主および関係各所に対して建設予定地の変更を求める要望書を提出しました。

建設予定地は、北潟湖西岸の福井県あわら市富津付近。当該地は、国指定鳥獣保護区特別保護地区・ラムサール条約湿地である片野鴨池に飛来する国指定天然記念物マガン、ヒシクイが、ねぐらである片野鴨池と採餌場所である福井県の坂井平野の水田を往復する際に通過することがある位置にあたります。

(財)日本野鳥の会および鴨池観察館友の会が実施した調査によれば、建設予定地上空を多数のマガンが通過したことが確認され、最大では2006年3月10日に2400羽が確認されました。これは、鴨池に飛来するマガンのほとんど全てに相当する数。また、例数は1回と少ないものの、撮影された写真から飛行高度の推定を試み、地上からおよそ60mと推定されました。この高度は、風車のプロペラが回転する範囲内に含まれます。

これらの調査結果から、風力発電施設の建設がラムサール条約湿地・片野鴨池、福井県坂井平野の生態系および国指定天然記念物でレッドデータブック掲載種であるマガン、ヒシクイなどの希少鳥類に影響を与えると判断し、要望書の提出に踏み切りました。

事業主による環境影響評価も行われていますが、影響の有無を判断するには回数が少なすぎ、その結果を持って建設を実施するのは問題があると考えます。

要望書提出先

環境省 文化庁 経済産業省 資源エネルギー庁 福井県 あわら市 石川県 北陸電力株式会社 電源開発株式会社

同時発表

加賀市記者クラブ、福井県庁記者クラブ 、環境省記者クラブ(環境問題研究会・環境記者会)

お問い合わせ先
( 財 )日本野鳥の会自然保護室 TEL:042-593-6872 /FAX:042-593-6873
〒 191-0041東京都日野市南平2-35-2 ウイング1階   http://www.wbsj.org/
担当:古南


日野鳥発第12号
福井野鳥 4号
平成18年5月26日

環境大臣
小池 百合子 殿

東京都渋谷区初台1 – 47- 1
小田急西新宿ビル1F
財団法人 日本野鳥の会
会長 柳生 博

日本野鳥の会 石川支部
支部長 橘 映州

日本野鳥の会 福井県支部
支部長 柳町 邦光

ラムサール条約湿地片野鴨池および国指定天然記念物
マガン、ヒシクイの保護に関する要望

 平素より本会の環境保全活動に関するご理解、ご協力に対し、深く感謝申し上げます。
さて、現在、ラムサール条約湿地であり、国指定鳥獣保護区特別保護地区である石川県加賀市・片野鴨池に近い福井県あわら市富津に電源開発株式会社による風力発電施設の建設計画があります(添付資料参照)。施設が設置された場合、ねぐらである片野鴨池と餌場である福井県坂井平野を往復する国指定天然記念物マガン、ヒシクイなどへの影響が危惧されます。そこで、ラムサール条約湿地片野鴨池の保全および天然記念物マガン、ヒシクイの保護のため、下記の通り要望いたします。

 当該地域への風力発電施設の設置によってマガン、ヒシクイなどの希少種が影響を受けることがないよう、日本国政府として適切な対応をお取り下さい。

理由は以下の通りです。

(1)片野鴨池に飛来するマガンのほとんど全てが建設予定地上空を通過しました
ラムサール条約湿地である片野鴨池に飛来するマガンおよびオオヒシクイは、片野鴨池をねぐらとし、福井県九頭竜川流域の水田地帯を主要な餌場としているため、ねぐらと餌場の往復で毎日2回、建設予定地付近の上空を通過します。この時、北潟湖付近でどのルート、飛行高度を選択して通過するのかは、その日の天候、風向や風力などの気象条件や、その日の餌場の位置などによって変わる可能性があります。
私どもが実施した調査では、回数は少ないものの鴨池に飛来するマガンのほとんど全てである2400羽の群れも建設予定地上空を通過しました。また、3月15日に建設予定地上空を飛行した際には写真撮影に成功し、写真から算出した飛行高度は推定60mでした。今回の計画で設置予定の風車のプロペラの最高到達点は地上100mで、プロペラが通過する範囲は地上40mから100mです。このことから、施設建設によって片野鴨池に飛来するマガン個体群に直接的および間接的に与える影響は大きいと考えられます。一方で、事業主の調査によれば建設予定地はマガンの主要な飛行ルートには当たらず、少数は衝突する危険性があるものの、それによって地域個体群に与える影響は少ないとのことです。しかし、少数とはいえ、国指定天然記念物であり、絶滅危惧種もしくは準絶滅危惧種であるマガンやヒシクイが影響を受けることは避ける必要があります。
また、半年に及ぶマガンの越冬期間を考えれば事業主による調査回数は非常に少なく、越冬期間中のマガンの飛行ルート把握やルート選択の要因の特定ができているとは到底考えられません。急遽実施した私たちの調査とさえ結果が違っており、このことは調査回数が少なすぎることと施設の影響が過小評価されていることを示していると思われます。
なお、直接的に与える影響とは、プロペラや支柱に衝突すること、間接的に与える影響とは、巨大な人工建造物が飛行ルート近くにあった場合にねぐらと餌場を往復する行動に悪影響を与えることを意味します。

(2)マガン・ヒシクイは文化財保護法の定める国指定天然記念物です
マガンおよびヒシクイは文化財保護法の定める国指定天然記念物です。天然記念物とは、学術上貴重な日本の自然を記念するもので、地域の遺産として保護し、活用していく非常に重要なものです。
また、野生生物を人為的に絶滅させることがないよう、絶滅のおそれのある種を的確に把握し、各種事業者等が種の保存の取り組みに活用するために編纂された環境省のレッドデータブック(以下RDB)では、マガンは 生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性がある準絶滅危惧種に指定されて おり、石川県版RDB、福井県版RDBでは絶滅危惧II類に指定されています。ヒシクイは環境省のRDBでは絶滅危惧II類(亜種ヒシクイ)、準絶滅危惧種(亜種オオヒシクイ)に指定されており、石川県版RDBでは絶滅危惧II類、福井県版RDBでは県域絶滅危惧I類(亜種オオヒシクイ)、県域絶滅危惧II類(亜種ヒシクイ)に指定されています。このようなマガン、ヒシクイに対して、前述のような悪影響を与える可能性のある今回の計画は実施すべきではありません。
この他、福井県の県域準絶滅危惧種に指定されているコハクチョウに対しても、マガンと同様に悪影響を及ぼすと考えられます。

(3)国際的に重要なラムサール条約湿地・片野鴨池の生態系に影響を及ぼします
このマガンの休息地である片野鴨池は、地元の努力で江戸時代から330年以上に渡って保護されてきた場所で、湿地保全の国際条約であるラムサール条約の登録地になっています。また、石川県天然記念物、および生息地保全に関する国際的なネットワークであるIBAにも選定されている国内的にも国際的にも重要な湿地です。しかし、今回の計画が実行されれば、片野鴨池における生態系の中心であるマガンに悪影響を及ぼし、ひいては片野鴨池全体の生態系に重大な響を及ぼすおそれがあります。

以上の理由により、現在の予定地への建設は実施すべきではありません。日本国政府として、計画に対して適切な対応をおとりいただけるものと期待いたします。

以上


日野鳥発第15号
福井野鳥 7号
平成18年5月26日

文化庁長官
河合 隼雄 殿

東京都渋谷区初台1 – 47- 1
小田急西新宿ビル1F
財団法人 日本野鳥の会
会長 柳生 博

日本野鳥の会 石川支部
支部長 橘 映州

日本野鳥の会 福井県支部
支部長 柳町 邦光

ラムサール条約湿地片野鴨池および国指定天然記念物
マガン、ヒシクイの保護に関する要望

 平素より本会の環境保全活動に関するご理解、ご協力に対し、深く感謝申し上げます。
さて、現在、ラムサール条約湿地であり、国指定鳥獣保護区特別保護地区である石川県加賀市・片野鴨池に近い福井県あわら市富津に電源開発株式会社による風力発電施設の建設計画があります(添付資料参照)。施設が設置された場合、ねぐらである片野鴨池と餌場である福井県坂井平野を往復する国指定天然記念物マガン、ヒシクイなどへの影響が危惧されます。そこで、ラムサール条約湿地片野鴨池の保全および天然記念物マガン、ヒシクイの保護のため、下記の通り要望いたします。

 当該地域への風力発電施設の設置によってマガン、ヒシクイなどの希少種が影響を受けることがないよう、日本国政府として適切な対応をお取り下さい。

理由は以下の通りです。

(1)片野鴨池に飛来するマガンのほとんど全てが建設予定地上空を通過しました
ラムサール条約湿地である片野鴨池に飛来するマガンおよびオオヒシクイは、片野鴨池をねぐらとし、福井県九頭竜川流域の水田地帯を主要な餌場としているため、ねぐらと餌場の往復で毎日2回、建設予定地付近の上空を通過します。この時、北潟湖付近でどのルート、飛行高度を選択して通過するのかは、その日の天候、風向や風力などの気象条件や、その日の餌場の位置などによって変わる可能性があります。
私どもが実施した調査では、回数は少ないものの鴨池に飛来するマガンのほとんど全てである2400羽の群れも建設予定地上空を通過しました。また、3月15日に建設予定地上空を飛行した際には写真撮影に成功し、写真から算出した飛行高度は推定60mでした。今回の計画で設置予定の風車のプロペラの最高到達点は地上100mで、プロペラが通過する範囲は地上40mから100mです。このことから、施設建設によって片野鴨池に飛来するマガン個体群に直接的および間接的に与える影響は大きいと考えられます。一方で、事業主の調査によれば建設予定地はマガンの主要な飛行ルートには当たらず、少数は衝突する危険性があるものの、それによって地域個体群に与える影響は少ないとのことです。しかし、少数とはいえ、国指定天然記念物であり、絶滅危惧種もしくは準絶滅危惧種であるマガンやヒシクイが影響を受けることは避けるべきです。
また、半年に及ぶマガンの越冬期間を考えれば事業主による調査回数は非常に少なく、越冬期間中のマガンの飛行ルート把握やルート選択の要因の特定ができているとは到底考えられません。急遽実施した私たちの調査とさえ結果が違っており、このことは調査回数が少なすぎることと施設の影響が過小評価されていることを示していると思われます。
なお、直接的に与える影響とは、プロペラや支柱に衝突すること、間接的に与える影響とは、巨大な人工建造物が飛行ルート近くにあった場合にねぐらと餌場を往復する行動に悪影響を与えることを意味します。

(2)マガン・ヒシクイは文化財保護法の定める国指定天然記念物です
マガンおよびヒシクイは文化財保護法の定める国指定天然記念物です。天然記念物とは、学術上貴重な日本の自然を記念するもので、地域の遺産として保護し、活用していく非常に重要なものです。
また、野生生物を人為的に絶滅させることがないよう、絶滅のおそれのある種を的確に把握し、各種事業者等が種の保存の取り組みに活用するために編纂された環境省のレッドデータブック(以下RDB)では、マガンは 生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性がある準絶滅危惧種に指定されて おり、石川県版RDB、福井県版RDBでは絶滅危惧II類に指定されています。ヒシクイは環境省のRDBでは絶滅危惧II類(亜種ヒシクイ)、準絶滅危惧種(亜種オオヒシクイ)に指定されており、石川県版RDBでは絶滅危惧II類、福井県版RDBでは県域絶滅危惧I類(亜種オオヒシクイ)、県域絶滅危惧II類(亜種ヒシクイ)に指定されています。このようなマガン、ヒシクイに対して、前述のような悪影響を与える可能性のある今回の計画は実施すべきではありません。
この他、福井県の県域準絶滅危惧種に指定されているコハクチョウに対しても、マガンと同様に悪影響を及ぼすと考えられます。

(3)国際的に重要なラムサール条約湿地・片野鴨池の生態系に影響を及ぼします
このマガンの休息地である片野鴨池は、地元の努力で江戸時代から330年以上に渡って保護されてきた場所で、湿地保全の国際条約であるラムサール条約の登録地になっています。また、石川県天然記念物、および生息地保全に関する国際的なネットワークであるIBAにも選定されている国内的にも国際的にも重要な湿地です。しかし、今回の計画が実行されれば、片野鴨池における生態系の中心であるマガンに悪影響を及ぼし、ひいては片野鴨池全体の生態系に重大な響を及ぼすおそれがあります。

以上の理由により、現在の予定地への建設は実施すべきではありません。日本国政府として、計画に対して適切な対応をおとりいただけるものと期待いたします。

以上


日野鳥発第18号
福井野鳥10号
平成18年5月26日

経済産業大臣
二階 俊博 殿

東京都渋谷区初台1 – 47- 1
小田急西新宿ビル1F
財団法人 日本野鳥の会
会長 柳生 博

日本野鳥の会 石川支部
支部長 橘 映州

日本野鳥の会 福井県支部
支部長 柳町 邦光

電源開発株式会社が福井県あわら市に建設予定の
風力発電施設への補助金拠出に関する要望

 平素より本会の環境保全活動に関するご理解、ご協力に対し、深く感謝申し上げます。さて、現在、ラムサール条約湿地であり、国指定鳥獣保護区特別保護地区である石川県加賀市・片野鴨池に近い福井県あわら市富津に電源開発株式会社による風力発電施設の建設計画があります(添付資料参照)。施設が設置された場合、ねぐらである片野鴨池と餌場である福井県坂井平野を往復する国指定天然記念物マガン、ヒシクイなどへの影響が危惧されます。そこで、ラムサール条約湿地片野鴨池の保全および天然記念物マガン、ヒシクイの保護のため、下記の通り要望いたします 。

 日本国政府として、風力発電施設建設の補助金を拠出する際には、国指定天然記念物マガン、ヒシクイなどの希少種が影響を受けないことをご確認ください 。

理由は以下の通りです。

(1)片野鴨池に飛来するマガンのほとんど全てが建設予定地上空を通過しました
ラムサール条約湿地である片野鴨池に飛来するマガンおよびオオヒシクイは、片野鴨池をねぐらとし、福井県九頭竜川流域の水田地帯を主要な餌場としているため、ねぐらと餌場の往復で毎日2回、建設予定地付近の上空を通過します。この時、北潟湖付近でどのルート、飛行高度を選択して通過するのかは、その日の天候、風向や風力などの気象条件や、その日の餌場の位置などによって変わる可能性があります。
私どもが実施した調査では、回数は少ないものの鴨池に飛来するマガンのほとんど全てである2400羽の群れも建設予定地上空を通過しました。また、3月15日に建設予定地上空を飛行した際には写真撮影に成功し、写真から算出した飛行高度は推定60mでした。今回の計画で設置予定の風車のプロペラの最高到達点は地上100mで、プロペラが通過する範囲は地上40mから100mです。このことから、施設建設によって片野鴨池に飛来するマガン個体群に直接的および間接的に与える影響は大きいと考えられます。一方で、事業主の調査によれば建設予定地はマガンの主要な飛行ルートには当たらず、少数は衝突する危険性があるものの、それによって地域個体群に与える影響は少ないとのことです。しかし、少数とはいえ、国指定天然記念物であり、絶滅危惧種もしくは準絶滅危惧種であるマガンやヒシクイが影響を受けることは避ける必要があります。
また、半年に及ぶマガンの越冬期間を考えれば事業主による調査回数は非常に少なく、越冬期間中のマガンの飛行ルート把握やルート選択の要因の特定ができているとは到底考えられません。急遽実施した私たちの調査とさえ結果が違っており、このことは調査回数が少なすぎることと施設の影響が過小評価されていることを示していると思われます。
なお、直接的に与える影響とは、プロペラや支柱に衝突すること、間接的に与える影響とは、巨大な人工建造物が飛行ルート近くにあった場合にねぐらと餌場を往復する行動に悪影響を与えることを意味します。

(2)マガン・ヒシクイは文化財保護法の定める国指定天然記念物です
マガンおよびヒシクイは文化財保護法の定める国指定天然記念物です。天然記念物とは、学術上貴重な日本の自然を記念するもので、地域の遺産として保護し、活用していく非常に重要なものです。
また、野生生物を人為的に絶滅させることがないよう、絶滅のおそれのある種を的確に把握し、各種事業者等が種の保存の取り組みに活用するために編纂された環境省のレッドデータブック(以下RDB)では、マガンは 生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性がある準絶滅危惧種に指定されて おり、石川県版RDB、福井県版RDBでは絶滅危惧II類に指定されています。ヒシクイは環境省のRDBでは絶滅危惧II類(亜種ヒシクイ)、準絶滅危惧種(亜種オオヒシクイ)に指定されており、石川県版RDBでは絶滅危惧II類、福井県版RDBでは県域絶滅危惧I類(亜種オオヒシクイ)、県域絶滅危惧II類(亜種ヒシクイ)に指定されています。このようなマガン、ヒシクイに対して、前述のような悪影響を与える可能性のある今回の計画は実施すべきではありません。
この他、福井県の県域準絶滅危惧種に指定されているコハクチョウに対しても、マガンと同様に悪影響を及ぼすと考えられます。

(3)国際的に重要なラムサール条約湿地・片野鴨池の生態系に影響を及ぼします
このマガンの休息地である片野鴨池は、地元の努力で江戸時代から330年以上に渡って保護されてきた場所で、湿地保全の国際条約であるラムサール条約の登録地になっています。また、石川県天然記念物、および生息地保全に関する国際的なネットワークであるIBAにも選定されている国内的にも国際的にも重要な湿地です。しかし、今回の計画が実行されれば、片野鴨池における生態系の中心であるマガンに悪影響を及ぼし、ひいては片野鴨池全体の生態系に重大な響を及ぼすおそれがあります。

以上の理由により、現在の予定地への建設は実施すべきではありません。日本国政府として、計画に対して適切な対応をおとりいただけるものと期待いたします。

以上


(別紙) 片野鴨池で越冬するマガンの渡去期の餌場への飛行ルートに関する調査報告

(財)日本野鳥の会 

はじめに
ラムサール条約湿地である片野鴨池には、国の天然記念物マガン、ヒシクイなどのガン類が飛来する。越冬数は、マガンが 3,000 羽ほど、ヒシクイが 500 羽ほどである。これまでの調査から、片野鴨池に飛来しているマガンは太平洋側に飛来するマガンとは別の個体群に属すると考えられており、マガンの遺伝的多様性を保全する上で貴重な群れである。
マガンは、早朝鴨池を飛び立ち、福井県坂井平野の水田地帯で採餌したのち、日没前後に鴨池に戻ってねぐらを取る。これらを行き来する飛行ルート近くに風力発電施設の開発計画があり、環境アセスメント調査も実施されている。しかし、マガンなどのガン類を主な対象とした調査の回数は 1 月、 3 月合わせて 6 日間ときわめて少なかった。マガンは 9 月下旬から 3 月中旬までの約半年間鴨池に滞在し、そのうち坂井平野で採餌する期間は、例年 12 月中旬から 3 月にかけての約 3 ヶ月である。したがって、 6 日間という調査期間ではマガンへの影響の有無を判断できるとは考えにくい。
風力発電は、建設に要する土地の切り開きが他の発電方法に比べれば少ないこと、発電に際しては二酸化炭素などを発生しないことから環境に配慮したクリーンエネルギーと言われており、国策によって推進されているが、建設場所によっては二酸化炭素の削減による環境保全上の効果よりも大きな悪影響を環境、特に野生生物に与える。
片野鴨池は 330 年以上に渡って地元住民によって保全されてきた湿地で、ラムサール条約湿地であると同時に国指定鳥獣保護区特別保護地区、越前加賀海岸国定公園第一種特別地区、石川県天然記念物でもあり、石川県指定無形文化財である坂網猟が継承されている、国際的にも全国的にも重要な湿地である。建設によって片野鴨池のマガンに影響を与えることがあれば、世界的に貴重な 330 年以上に渡って保全されてきた湿地生態系を失うことになる。マガンと開発予定地の関係を正しく把握するために独自に調査を行い、飛行ルートと予定地の位置関係を示した。
したがって、本報告の最終的な目的は、マガンの飛行ルートと建設予定地の位置関係を示し、マガンに影響を与えるかどうかを検討することにある。なお、本調査は(財)日本野鳥の会 鴨池観察館担当レンジャーと鴨池観察館友の会会員が共同で実施した。

調査地と調査方法
調査地は北潟湖西岸のあわら市富津周辺である。建設予定地であるあわら市富津付近に 2 箇所、北潟湖西岸に 1 箇所設置した定点から(図 1 )、 8 倍の双眼鏡をもちいて調査地周辺を飛行するマガンの個体数と飛行ルートを地図上に記録した。また、ねぐらである片野鴨池において早朝飛び立つまたは夕方飛来するマガンの個体数を記録し、定点調査の補助とした。

調査は 3 月 7 日から 3 月 23 日にかけて、坂井平野に向かうマガンの飛行コースを記録する早朝の調査を 5 回、坂井平野から戻る飛行コースを記録する夕方の調査を 17 回、計 23 回、計 24.3 時間実施した。調査員の延べ人数は 56 名であった。なお、調査に際してマガンが鴨池を飛び立つ時刻が日の出後 30 分から 1 時間のあいだ(平均 17 分後)、ねぐら入りの時刻は日没から平均 24 分後であることから調査時刻を設定した。

確認された群れを、それぞれの飛行ルートによって、確認された群れを「湖上通過群」「予定地上空通過群」「湖上と予定地の間通過群」の 3 グループに分け、個体数の割合を比較した。
また、調査地周辺を飛行するマガンの群れを撮影し、周囲の丘、平地との比較から飛行高度の推定を試みた。飛行高度の推定に際しては、平地から丘の頂上までの高度差を地形図上で算出し、写真上で群れの位置が平地・丘の高度差の何倍あるかを元に推定した。なお、群れが丘の直上に到達した際に撮影された写真をもちい、群れの位置の変化によって高度の推定に誤差が生じないよう留意した。

結果
記録されたマガンの飛行コースを図 1 に、調査地上空を飛行した際の群れの様子を写真 1 に示した。マガンの多くは北潟湖上空を通過していたが(全体の 84.7 %)、湖上と予定地の間や予定地上空を飛行した群れも確認された(それぞれ 2.8 %、 12.5 %)。以下、早朝の調査と夕方の調査に分けて述べ、その後飛行高度について述べる。

<早朝の調査>
3 月 10 日から 3 月 18 日にかけて 5 回の調査を実施し、そのうち 3 回の調査でマガンの飛行ルートを確認することができた。

3 月 10 日の調査では、予定地上空を 2,400 羽が通過し、「予定地上空通過群」が全体の 100 %を占めた。調査期間中にそれぞれのグループが占めた割合は、湖上通過群が 66.7 %、湖上と予定地の間通過群が 0 %で、予定地上空を通過した群れが 33.3 %であった。

<夕方の調査>
3 月 7 日から 3 月 23 日にかけて 17 回の調査を実施し、 14 回の調査でマガンの飛行ルートを確認することができた。

3 月 7 日の調査では予定地上を 2,200 羽が、 3 月 15 日の調査では予定地上を 130 羽が通過し、「予定地上通過群」がそれぞれ全体の 100 %、 12.5 %を占め、割合が高かった。調査期間中にそれぞれのグループが占めた割合の平均は、予定地上空通過群が 8.0 %、湖上と予定地の間通過群が 3.4 %、湖上通過群が 88.5 %であった。

調査地とマガンの飛行ルート図1.調査地とマガンの飛行ルート

建設予定地を赤線で囲み、調査定点をXで、マガンの飛行ルートを緑の矢印で示した。 3 月 7 日には 2,200 羽、 3 月 10 日には、 2,400 羽のマガンが調査地上空を通過した。

<マガンの飛行高度>
マガンの群れが調査地付近の丘と平地直情を通過している際の写真を示した(写真 1 )。平地の海抜高度が 45 m、丘の頂上の高度が 60.2 mであることから、写真に示した白、もしくは黒のバー一つが 15 mを示す。したがって、群れの高度は平地部上空およそ 60 mと推定された。

考察
予定地上空を通過した群れは 12.5 %を占め、 3 月 7 日と 10 日には、もっとも北潟湖に近い予定地上空をそれぞれ 2,200 羽、 2,400 羽のマガンが通過した。また、 3 月 15 日に坂井平野から片野鴨池に戻る途中に建設予定地を通過したマガンの群れは、推定で地上 60 m程度を飛行していた。

3 月 7 日、 10 日に記録された個体数は、この時期に片野鴨池に滞在していたマガンのほとんど全てであって、それが一群で通過したことと、 3 月 15 日の飛行高度は建設予定の風力発電設備のプロペラの回転半径内にあることから、予定地に風力発電施設が設置された場合、一度の衝突で多数のマガンがプロペラに接触するなど、非常に大きな影響を受ける可能性が高い。また、建設予定地と北潟湖の間はもっとも狭いところではわずか 250 mしか離れていない。したがって、この範囲を通過したマガンは風向や強さによっては予定地上空を通過する可能性がある。

さらに、巨大な動く建築物が飛行ルート近くにある場合、その存在が攪乱要因となり、現在のルートを利用しなくなる可能性、坂井平野を餌場として利用しなくなる可能性も考えられ、越冬期のマガンの生存率や翌春の繁殖成功率にも影響を与えるおそれがある。

坂井平野を餌場として利用しなくなった場合には、マガンはそれ以外の水田地帯で採食することになるが、片野鴨池のマガンは大聖寺川流域と坂井平野以外では採食をしていない。大聖寺川流域の水田地帯は坂井平野と比較して面積が小さく、マガンが必要とするエネルギー要求量を満たせない。したがって、坂井平野を利用できなくなったマガンが坂井平野、大聖寺川流域以外の水田地帯で採食できなかった場合、ねぐらを片野鴨池から移すことを余儀なくされる可能性がある。

このように、現在の建設予定地に風力発電施設を建設した場合、ラムサール条約湿地片野鴨池の湿地生態系やマガン個体群に非常に大きな影響を与える可能性があるため、建設予定地を変更するか、事業を中止するべきである。

建設予定地上空を飛ぶマガンの群れ

写真 1 .建設予定地上空を飛ぶマガンの群れ。 2006 年 3 月 15 日 17 時 40 分頃、あわら市富津にて撮影。白/黒のバーは一目盛あたり 15 mを示す。マガンの群れは、地上から推定 60 mの上空を通過した。


(添付資料)

福井県あわら市富津付近に計画されている風力発電施設について

■建設予定地
福井県あわら市富津付近(下図の赤い枠の範囲内)

■設置台数
9基

■事業主
電源開発株式会社
〒104-8165  東京都中央区銀座6 – 1 – 15

福井県あわら市富津付近/風力発電建設予定地


印刷される方はこちらをご利用ください
PDF 福井県の風力発電施設建設計画に関するプレスリリース

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