2006.10.19
2006年10月19日、日本野鳥の会 根室支部(事務局:根室、支部長:細川憲了、支部会員:約80人)と、(財)日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博、会員・サポーター数約5万2千人)は、株式会社ユーラスエナジージャパン(以下、ユ社)の「(仮称)根室ウインドファーム環境影響評価調査方法書」に対し、連名で別紙のような意見書を提出しました。意見書では、ユ社の根室半島での風力発電用風車15基の建設計画予定地が、オジロワシなどの希少鳥類の生息地であり、風車への衝突事故がおこらないように、必要な調査を行なうことを求めています。
ユ社では、根室半島の歯舞地区に風力発電用風車 15基の建設を計画しており、経済産業省が推奨するガイドラインに従って行う自主的な環境影響評価のための方法書を作成し、9月5日から10月4日まで 根室市 で縦覧した。意見書の提出期間は、9月5日から 10月19日までであった。
ユ社の建設計画予定地周辺では、オジロワシ(種の保存法国内希少野生動植物種、天然記念物、環境省RDB絶滅危惧IB類、北海道RDB絶滅危惧種)をはじめ、オオワシ、タンチョウ、コクガン、オオジシギなどの希少鳥類が生息し、特にオジロワシとタンチョウは、これまで同予定地周辺で営巣が確認されている。同予定地周辺は、これらの鳥類にとって、重要な生息地となっている。また予定地全域は、環境省(2002)において、「根室半島湿原群」として「日本の重要湿地500」に選定されている。
オジロワシによる風車への衝突事故は、これまで国内で5例が確認、公表されている。(財)日本野鳥の会が 2006年7月に行った同予定地周辺でのオジロワシの生息状況の予備的な調査では、予定地上空を通過する個体が確認された(調査結果を参考資料として別紙に添付)。このことからも、同予定地周辺では、同種による衝突事故の可能性があると考えられる。
日野鳥発第 60号
平成18年10月18日
株式会社ユーラスエナジージャパン 御中
日本野鳥の会 根室支部
支部長 細川憲了
北海道根室市西浜町 3-56
加藤宅
財団法人 日本野鳥の会
会長 柳生 博
東京都渋谷区初台1- 47-1
小田急西新宿ビル1F
「(仮称)根室ウインドファーム環境影響評価方法書」に対する意見書
この度、御社が作成された「(仮称)根室ウインドファーム環境影響評価方法書」について、私どもでは、下記のように意見を提出しますので、よろしくご検討ください。なお、今回のように根室でのウインドファーム計画策定にあたり、環境影響評価方法書を提示し、意見を公募される機会を設けられたことを評価しております。
記
(1)【予定地で確認されている希少鳥類について】
予定地周辺では、以下の希少鳥類が確認されており、それぞれ保存法、保護指定、レッドデータブック指定をうけている。このため、これらの鳥類への影響を明らかにするための調査計画が必要である。
■ オジロワシ
・ 種の保存法 国内希少野生動植物種
・ 文化財保護法 天然記念物指定種
・ 環境省 RDB 絶滅危惧IB類
・ 北海道 RDB 絶滅危惧種
■ オオワシ
・ 種の保存法 国内希少野生動植物種
・ 文化財保護法 天然記念物指定種
・ 環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
・ 北海道 RDB 絶滅危惧種
■ タンチョウ
・ 種の保存法 国内希少野生動植物種
・ 文化財保護法 天然記念物指定種
・ 環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
・ 北海道 RDB 絶滅危惧種
■ コクガン
・ 文化財保護法 天然記念物指定種
・ 環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
・ 北海道 RDB 希少種
■ オオジシギ
・ 環境省 RDB 準絶滅危惧
・ 北海道 RDB 希少種
<参考資料>
・ 文化財保護法(法律 第214号)
・ 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(法律第 75号)
・ 環境省.2002.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-鳥類.東京
・ 北海道.2001.北海道の希少野生生物 北海道レッドデータブック2001.北海道
(2)【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
鳥類調査は、年4回実施することとしているが、これでは不十分である。また、調査方法として「ラインセンサス法」「ポイントセンサス法」「任意観察調査」を挙げているが、それぞれの調査地点、調査時期、調査期間、調査日数が全く不明であるため、以上の点について明確にする。
(3)【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
オジロワシによる風車への衝突事故は、国内で、既に5例が確認(2006年5月現在)されている。予定地周辺でオジロワシの生息可能性が認められるにもかかわらず、風車への衝突事故の危険性を予測するための調査手法が明示されていない。(予定地周辺では、2006年度、オジロワシ1つがいが繁殖し、古巣1つ、若鳥2羽以上の生息が確認されている。また、根室市中心部以東の根室半島部では、過去5箇所でオジロワシの営巣が確認されている場所がある。)
(4)【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
正富宏之教授のご退任を祝う会(2004)やタンチョウ保護調査連合(未発表)では、予定地周辺にあるトーサンポロ沼周辺で、1989年以降タンチョウの営巣を今までに4回、2005年、2006年に1つがいの生息を確認している。また、予定地周辺のサンコタン川水源地付近で、1996年以降断続的に営巣を確認している。しかし、同種の生息状況を把握する調査手法が明示されていない。
(5)【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
予定地周辺の海や湖沼には、春・秋に多数ガンカモ類が渡来し、越冬期にはコクガンなども確認されている。また、予定地周辺には、越冬のためオジロワシ・オオワシが多数飛来する。これら鳥類のうち、オジロワシは一年中確認され、2006年7月には予定地を縦断していることが確認されいる。その他の鳥類についても、太平洋側とオホーツク海側を行き来し、予定地を縦断することが予想される。しかし、それらの状況を把握するための調査手法が明示されていない。
(6)【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
根室半島には、ラムサール条約湿地である風蓮湖・春国岱をはじめ、ガンカモ類が訪れる湖沼が点在している。これらのガンカモ類がどのようなルートで、根室半島に訪れているかの調査は、これまで行われていない。ガンカモ類が、予定地周辺を通過しているかを把握する調査を行う必要がある。
(7) 【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
予定地周辺では、4月下旬~6月下旬にかけて、オオジシギの誇示飛翔が頻繁に確認されているが、オオジシギの生息状況を把握するための調査手法が明示されていない。
(8) 【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
予定地全域は、環境省(2002)において「根室半島湿原群」として「日本の重要湿地500」に選定されている場所で、根室半島最大の高層湿原であるが、方法書では、植物に係わる重要な種の選定基準とした文献に「日本の重要湿地500」が含まれていない。以下、表1に『「日本の重要湿地500」選定調査の選定基準』、表2に『根室湿原群の「日本の重要湿地500」選定理由・選定基準』を示す。
基準 ① | 湿原/塩性湿地、河川/湖沼、干潟/マングローブ林、藻場、サンゴ礁のうち、豊かな生物多様性を有している又は相当の規模の面積を有している場合 |
---|---|
基準 ② | 希少種、絶滅危惧種、固有種等が生育・生息している場合 |
基準 ③ | 多様な生物相を有している場合 |
基準 ④ | 特定の種の個体群のうち、相当数の割合の個体数が生育・生息する場合 |
基準 ⑤ | 生物の生活史の中で不可欠な地域(採食場、産卵場等)である場合 |
湿地名 | 湿地タイプ | 選定生物 | 生育・生息 | 選定理由 | 選定基準 |
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根室湿原群(根室半島湿原、ホロニタイ・フレシマ湿原、タンネ沼・オンネ沼、南部沼、長節湖、落石岬湿原、落石西湿原、落石湿原、ヒキウス沼、沖根辺沼) | 高層湿原など複合型湿地、湖沼 | 湿原植生 | 根室半島湿原群(根室半島湿原、ホロニタイ・フレシマ湿原、タンネ沼・オンネ沼・南部沼・長節沼、落石岬湿原、落石西湿原、落石湿原) | 歯舞の台地には高層湿原が発達している。主要な植生はヌマガヤ-イボミズゴケ群落とイソツツジ-チャミズゴケ群落、ムジナスゲ群落、ミクリ属群落、ケヤマハンノキ林。ガンコウラン、イソツツジ、エゾマルバシモツケ、クロマメノキ、コケモモ、エゾゴゼンタチバナ、ホロムイクグ、アラハシガゴケなどを産す。落石岬とその周辺台地の湿原植生は湿原生アカエゾマツ林のほか、ヌマガヤ-イボミズゴケ群落、イソツツジ-チャミズゴケ群落。落石岬にはサカイツツジが隔離分布する。海岸低地湖沼周辺の湿地にはヨシ-イワノガリヤス群落とヤチヤナギ-ムジナスゲ群落を中心とする低層湿原。水辺にはヤラメスゲ群落やフトイ群落、ガマ群落、その他水生植物群落。 | ① |
水草 | 南部沼・オンネ沼・長節沼 | ネムロコウホネ、沈水性ヒルムシロ属等の種の多様性が大きく、特に南部沼・オンネ沼は環境が悪化しておらず道東本来の湖沼植生が残る。 | ①③ | ||
その他鳥類 | 根室湿原群(フレシマ湿原、タンネ沼・オンネ沼、ヒキウス沼、沖根辺沼) | タンチョウの生息地。営巣数の約4%が存在。 | ②④ | ||
昆虫類 | 落石岬 | カラフトルリシジミ、オクエゾクロマメゲンゴロウ、ノサップマルハナバチの生息地。 | ② | ||
淡水貝類 | 根室湿原群・別寒辺牛湿原・釧路湿原 | ミズシタダミ類、マメシジミ類。種の多様性が高い(北方系貝類要素)。 | ③ |
(9)【方法書第4-2-1表(4)、第4-2-1表(5)について】
予定地内にある歯舞の湿原では、以下の植物が確認され(ねむろ花しのぶの会)、それぞれレッドデータブック指定をうけている。
■ ホロムイコウガイ
・環境省 RDB 絶滅危惧IA類
・北海道 RDB 絶滅危急種
■ ネムロスゲ
・環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
■ ヒメツルコケモモ
・環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
・北海道 RDB 絶滅危急種
■ ホロムイクグ
・環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
・北海道 RDB 絶滅危急種
■ テガタチドリ
・北海道 RDB 絶滅危急種
■ チシマウスバスミレ(ケウスバスミレ)
・環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
・北海道 RDB 希少種
■ エゾゴゼンタチバナ
・環境省 RDB 絶滅危惧IB類
・北海道 RDB 希少種
■ ヒメミクリ
・環境省 RDB 絶滅危惧 II 類
・北海道 RDB 希少種
<参考資料>
・環境庁.2000.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-植物I.東京
・北海道.2001.北海道の希少野生生物 北海道レッドデータブック2001.北海道
(10)【第4-2-1表(5)について】について
評価の手法についての説明が不明瞭で、どのように評価していくのかがわからない。
(11)【風車への野鳥の衝突事故に関するモニタリング調査について】
根室半島では、2005年12月10日に、昆布盛のウインドファームで、オジロワシの衝突事故が発見されている。こうした事故は今後も起きる可能性があるので、現在、根室半島で稼動している風車の被害状況を確認し、対策を検討することが必要である。また、根室の夏は、毎日のように霧が発生する。そのため、霧の影響をはかることも必要である。稼動中の風車を巡回し、風車に衝突したと思われる鳥類の有無を確認するモニタリング調査の実施が必要である。1年間、特に霧の発生時期は毎日行い、その他の時期は、月2回連続3日以上ずつ実施すべきである。
(12)【鳥類の調査について】
上述の(1)~(7)の意見を踏まえ、以下に必要と考えられる調査方法を示す。
<参考資料1として、2006年7月7・9日に実施した、オジロワシの生息状況調査の結果を添付する。同調査は、午前5時から午後5時まで実施した。これを元に、朝(8:00-8:30)・昼(12:00-12:30)・夕(16:30-17:00)に各30分ずつ同様の調査を行った場合のデータを参考資料2として添付する。参考資料1の図1と参考資料2から、短時間の調査では、生息状況を把握するために十分なデータがとれないことがわかる。>
以上
根室市温根元~珸瑶瑁地区におけるオジロワシの生息状況調査
山口 桂賜※1 ・ 長岡 滋雄※2
※1.(財)日本野鳥の会 サンクチュアリ室 〒151-0061 東京都渋谷区初台1-47-1 小田急西新宿ビル1階
※2.霧多布湿原自然学校 〒088-1365 北海道厚岸郡浜中町茶内橋北東53
北海道東部に位置する根室半島先端部の根室市温根元~珸瑶瑁地区では、オジロワシ Haliaeetus albicilla の生息や繁殖が確認されているが、同地域でのオジロワシの生息エリアを明らかにする調査は、これまで行なわれていない。この報告では、これを明らかにするために行なった基礎的な調査結果について述べる。
調査地は、根室半島先端部に位置する、根室市温根元~珸瑶瑁周辺である。同地域は、北部のオホーツク海(根室海峡)と、南部の太平洋に挟まれた半島部に位置し、オホーツク海側に2つの漁港、太平洋側に 1つの漁港があり、北部にトーサンポロ沼があり、内陸部は牧草地である。
調査定点は、トーサンポロ沼東側と南側に各 1ケ所設置した。調査は、8~10倍の双眼鏡、20~40倍の望遠鏡をもちいて、7時から17時までの間に、調査エリア内を休止・飛行するオジロワシの休止位置・飛行ルートを地図上に記録した。
また、5時から6時まで、調査エリアを一周する約 21kmの周回コースを自動車で走行し、車中から確認されたオジロワシの休止位置・飛行ルートを地図上に記録し、6時から7時までの間に、定点周辺の道路沿いに2コース(2.25km、2.43km)を設定し、徒歩または自動車で確認されたオジロワシの休止位置・飛行ルートを周り、周辺のオジロワシの生息状況の確認を行った。
定点調査は、 2006年7月7日、7月9日の2日間、合計20時間実施した。調査員の延べ人数は4名であった。
2006年7月7・9日の調査結果を図1にまとめた。
トーサンポロ沼の南東部に位置するポンオンネモト川周辺と、太平洋側を行き来するオジロワシや、トーサンポロ川の南部に位置する牧草地を東進するオジロワシが確認された。ポンオンネモト川の南部牧草地にある牧柵で休止することがよく確認された。また、当該地域には、今シーズンの繁殖は失敗しているものの、オジロワシ 1つがいの営巣が確認されており、その営巣地を休止場所の一つとして移動するオジロワシも確認された。
調査地周辺を一周する約 21kmのコースでは、7月7日にオジロワシ1羽1ヶ所での休止が確認され、定点周辺の道路沿いの2コースでは確認できなかった。
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PDF (仮称)根室ウインドファーム環境影響評価調査方法書に関するプレスリリース