2015年5月13日
(公財)日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博 会員・サポーター数4万6千人)と日本製紙株式会社(本社:東京、社長:馬城文雄)は、同社が北海道釧路地域に所有する森林約1,986haについて、シマフクロウ(絶滅危惧ⅠA類)の生息地保全と森林施業の両立を目的とした「シマフクロウの生息地保全と日本製紙株式会社の事業の両立に関する覚書」を取り交わしました。覚書の取り交わしに際し、まずシマフクロウの生息状況調査を共同で行って、その結果を元に重要な範囲132haを抽出し、その範囲における施業の規模や時期を限定することで、シマフクロウの繁殖に与える影響を回避します。
森林施業を継続しながら絶滅の危惧に瀕する野鳥を保全するという共同活動は、当会として初めての試みです。釧路地域に広がる同社の社有林にはシマフクロウが繁殖しているので、生息地を保全しつつ持続可能な林業を行うこの取り組みは、今後のシマフクロウ保護の新たな仕組みとなるものです。
1.覚書の取り交わしに至った経緯
覚書の対象地を含む日本製紙社有林(1,986ha)では、2011年に林内の間伐跡地でシマフクロウの繁殖が初めて確認されました。この森林は施業林を含んでおり、伐採の時期や規模によってはシマフクロウの生息に影響を及ぼすことが懸念されました。当会では同年から同社と情報交換を行い、警戒心が特に強くなる繁殖期に営巣木付近の伐採を避けるなど、森林施業がシマフクロウの繁殖に影響を与えないよう、生息地保全に向けた調整を進めて参りました。また、根室地域においてシマフクロウ保護活動を協働で実施していたことからも、施業林における絶滅危惧種保護の重要性と双方の立場について相互理解と信頼関係の醸成が進みました。2014年には、同社の協力により繁殖期のシマフクロウの行動圏を把握する調査を実施し、シマフクロウの生息に特に重要と推定された区域を同社に報告しています。その結果、今回の覚書を取り交わす運びとなりました。
なお、具体的な場所や地名は、シマフクロウの生息地保護のため伏せさせていただきます。
2.覚書の内容について
この覚書では、当該森林においてシマフクロウの生息地保全のために協力をすること、特に、シマフクロウが繁殖に利用する可能性のある、樹洞木については、双方合意の上で保全すること、日本製紙株式会社は当該森林以外の北海道東部地域の社有林においても、シマフクロウの生息が確認された場合には、当会に報告することなどを取り交わしました。シマフクロウは広葉樹主体の河畔林に生息し、巨木の樹洞で繁殖することから、樹洞木の伐採は甚大な影響がありますが、今回の覚書の取り交わしにより、当該地では森林施業とシマフクロウ保全が両立されることになります。
3.シマフクロウについて
シマフクロウは、極東地域の狭い範囲に分布し、日本では北海道の中部から東部にかけて局所的に生息する、翼を広げると約180cmに達する世界最大級のフクロウの仲間です。主に河川の魚を食べ、巨木にできる樹洞で繁殖します。かつては北海道全域に分布していましたが、森林の伐採や河川環境の変化により減少し、現在では知床半島を中心に約50つがい140羽程が生息しているのみとなっています。環境省をはじめ、保護団体、地域の方々の活動により徐々に個体数は増加していますが、未だ絶滅の危機に瀕しており、環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類に指定されています。また、1971年には国の天然記念物に、1993年には国内希少野生動植物種に指定されています。
4.日本製紙株式会社の社有林について
日本製紙株式会社は国内に約9万haの社有林を保有しています。木材生産を行う「経営林分」と、自然保護に配慮し木材生産を目指した施業を行わない「環境林分」に区分した上で地域特性や周辺環境、生物多様性に配慮した適切な森林経営を実施しており、国内全ての社有林についてSGEC森林認証(※)を取得しています。2010年には、3つがいのシマフクロウが生息する北海道根室地域の126haの環境林分について、当会と保全協定を締結し、「日本製紙野鳥保護区シマフクロウ根室第3」を設置しました。なお、今回の覚書の対象地は、その大部分が通常の施業を行う経営林分となっています。
5.日本野鳥の会のシマフクロウ保全活動について
シマフクロウ生息地保全のため、土地の購入や地権者との協定により、独自の「野鳥保護区」を設置する活動を2004年から展開しています。2010年に日本製紙株式会社と設置した野鳥保護区では、シマフクロウをはじめ生息するさまざまな生物の調査をしています。2011年からは日高地域の生息地において、不足する餌を補い繁殖を補助する給餌活動を始めました。さらに2012年からは、富士通株式会社および富士通九州ネットワークテクノロジーズ株式会社の技術協力により、各地で集音したデータからシマフクロウの鳴き声を抽出し、シマフクロウの生息状況調査を実施しています。今回の覚書においても、音声解析により森林内のシマフクロウの利用範囲の推定を行い、対象地の設定に活かしています。
■覚書の対象地のイメージと、森林施業の際の配慮事項
日本製紙社有林(黒線内)は通常の施業をする経営林分だが、営巣木を中心とした半径250mの範囲(赤線内)、高頻度に利用している地点を中心とした半径250mの範囲(青線内)については、営巣木を保存した上で繁殖期の施業を避け、大規模皆伐は行わない。また、河川から片側20mの岸辺も、皆伐を行わない。
■覚書対象地の風景
覚書の対象森林
対象森林内を流れる河川
シマフクロウの生息状況調査のため、録音機材を設置(2014年)
※SGEC森林認証について
適正に管理された認証森林から生産される木材等を、生産・流通・加工工程でロゴ・マークを付すなどして管理し、市民・消費者に届ける制度で、世界的に推奨されている持続可能な森林管理の考え方をもとに、日本の現状に合わせて(一社)緑の循環認証会議が認証しています。認証対象森林の明示や管理手法の確定に加え、生物多様性の保全、森林生態系の維持、モニタリングと情報公開などの基準にもとづいて認証されます。
(一社)緑の循環認証会議(SGEC)URL: http://www.sgec-eco.org/