2019年11月27日
日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリは、今年の繁殖期(4~8月)に実施した苫東地域での鳥類調査で、国内レッドリストに挙げられた絶滅危惧ⅠB類を3種、同Ⅱ類を2種、準絶滅危惧を2種、計7種もの絶滅のおそれのある鳥類の生息を確認しました。(資料1もご参照ください。)
現在、当会は、同地域を含む勇払原野の一部がラムサール条約湿地に登録されるよう、保全活動を行なっており、その一環として、希少鳥類の調査を毎年実施し、結果の一部を公表しています。また、今回の調査結果は今後の保全活動に役立てて参ります。(これまでの活動については、資料2をご参照ください。)
なお、調査結果の公表によって希少鳥類の繁殖に悪影響が及ばないよう、この時期の発表といたしました。また、詳しい確認位置等の公表は控えさせていただきますのでご了承ください。
絶滅危惧ⅠB類のシマクイナは、昨年と同じ調査区域で少なくとも6羽を確認しました。これは昨年より1羽多い記録です。また、同ⅠB類のアカモズは、昨年と同数の2つがいを確認しました。2013年から毎年実施している調査の結果、初年の5つがいから翌年に2つがいに減少して以降、2019年まで2~4つがいで推移しています。アカモズは調査区域内のごく狭いエリアを毎年継続して利用していることから、生息環境の変化による営巣地の消失が懸念されます。
絶滅危惧Ⅱ類のタンチョウは1羽を確認し、苫東地域内において7年連続の確認となりました。近年、勇払原野全域では同時に複数箇所で確認されるようになっていることから、今後、同地域を含む勇払原野は重要な生息地になるものと考えられます。
準絶滅危惧種のオオジシギは5月に市民も参加する個体数調査を苫東地域内で実施し、63羽を確認しました。これは2001年の108羽、2017年の77羽と比べて少ない結果となりました。なお、生息環境を2017年と比較したところ、個体数減少の明確な原因は分かりませんでした。
今回の調査で確認されたのは、ほとんどが草原や湿原に生息し、また、全国でも限られた地域にしか生息しない鳥類です。全国的に見ても希少な鳥類が生息する自然環境、特に湿原や草原が苫小牧市内に残されていることが明らかになりました。
勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられています。原野を構成する湿原の面積は、過去90年で約8分の1に著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。一方、同所では1960年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートしました。しかし、その後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700haの土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっています。
当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2006年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行しました。以来、希少種の調査や弁天沼周辺での自然観察会を通じ、同所一帯の保全活動を行っています。近年の主な活動は以下の通りです。
・2006年 | 苫東地域におけるアカモズ生息状況調査を実施し、同地域がアカモズの国内有数の繁殖地である可能性が明らかになった。 |
・2006年 | 弁天沼周辺の畑等の土地利用の変化が鳥類相に与える影響調査を実施し、同所における耕作地化は、草原性鳥類の繁殖を阻害し個体数を減少させ、一帯の鳥類相をも変化させる可能性があることが明らかになった。 |
・2006年~ | 弁天沼周辺での自然観察会を毎年実施。 |
・2007年~ | 苫東地域におけるシマアオジの生息状況調査を毎年実施し、道内各地の生息記録が途絶える中、同地域には継続して渡来していたことが明らかになった。しかし、2012年の1羽を最後に、それ以降確認されていない。 |
・2008年 | 北海道知事宛てに「弁天沼周辺の土地利用に関する要望書」を提出。 |
・2009年 | 勇払原野で衛星電波発信機によるチュウヒの行動圏追跡調査を実施し、同種の繁殖期の行動範囲や生息に重要な環境が明らかになった。 |
・2012年 | 日本野鳥の会3支部との連名で、北海道知事宛てに「苫小牧東部開発地域内の鳥獣保護区指定に関する要望書」を提出。繁殖期における希少鳥類の生息状況調査を毎年実施。結果を記者発表。 |
・2014年 | 弁天沼周辺約950ヘクタールが河道内調整地となることが決定。 |
・2016年 | 弁天沼で行った調査でオオジシギの渡りルートの一部を解明 ウトナイ湖サンクチュアリ35周年記念シンポジウム~勇払原野をラムサール条約湿地に~を開催。 |
・2017年 | 勇払原野でオオジシギ個体数調査を実施。2001年と比較し、個体数が約3割減少していた。開発と樹林化が減少要因だった。 |
・2019年 | 柳生博と学ぶ勇払原野の魅力~安平川河道内調整地の賢明な利用を考える~を開催。 |
この他、「安平川下流域の土地利用に関する連絡協議会」(北海道主催。2008年5月設置)委員として、安平川下流域の治水対策としての河道内調整地(遊水地)計画に対し、希少鳥類の生息環境保全の観点から意見を述べています。
以上
日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリ
担当:中村 聡(なかむら さとし)
瀧本宏昭(たきもと ひろあき)
TEL:0144-58-2505
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