2021年12月1日
主催:三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館
共催:コーラル・ネットワーク
2021年11月19日、三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館、コーラル・ネットワークが共同で、世界共通のサンゴ調査である「リーフチェック」を実施した。実施した場所は三宅島の西側に位置する富賀浜のテーブル状サンゴ群集である。
調査を実施した結果、調査範囲の63%程度がサンゴに覆われ健全な状態であった。
三宅島では1998年より調査を開始し、2000年の雄山噴火に伴う全島避難で一時調査を中断した。2005年の帰島以後は、2007年以外毎年実施し、今回の調査は18回目となる。今回は駒沢大学応用地理研究所所員1名、島内のダイビングショップインストラクターおよびスタッフ3名、ボランティアダイバー1名、日本野鳥の会の職員でアカコッコ館のスタッフ1名で富賀浜を調査した。
世界共通の調査方法に準じ、サンゴ群集上にメジャーで100mのラインを設置し、ライン直下の構成種を造礁サンゴ、海藻、砂床など10種に分類し記録した。あわせて、ライン周辺の魚やエビ、ウニなど世界共通の対象種および三宅島独自対象種の生き物の数を記録した。
三宅島では富賀浜のほか、伊ケ谷カタン崎沖でも毎年、調査を行っているが、今年は海況不良のため未実施となった。
※リーフチェックとは
サンゴ礁の健康度を測るために世界同一基準で用いられているモニタリング調査で1997年に始まった。アメリカ・カリフォルニアに本部を置く民間団体が推進している。調査は科学者とボランティアダイバーでチームを編成し、サンゴ、魚類、海底の生物など国際基準の調査項目を潜水して調査し、調査結果をインターネットを通じて本部に送る。各地の結果は毎年本部で取りまとめられ、ホームページなどを通じて公表される。
テーブル状および被覆状のサンゴを中心に、63%程度が造礁サンゴに覆われていた。昨年に比べると減少しているが、過去の富賀浜での造礁サンゴの平均値は約55%のため、平均値よりも高い数値であり、サンゴの白化やサンゴ食の動物による食害による影響によるものではない。(昨年のシートを確認したところ、昨年の調査ラインのずれが昨年の高い数値となったものと考えられる)。今年の結果は依然として富賀浜のサンゴ群集が健全な状況を維持していることを示している。この テーブル状サンゴ群集自体は依然として伊豆諸島最大級であると思われる。
調査区域内ではオニヒトデやその食痕もみられていない。調査ライン周辺の魚類は三宅島独自の調査対象種であるニシキベラが多く確認された。それ以外の種に関しては例年通りであった。無脊椎動物はガンガゼ類と独自対象種であるナガウニ類が多く記録されたが、サンゴの増減とは関係がない。またオトヒメエビも確認された。2019年からところどころで見られていた漁網くずが今年も数カ所で見られた。
富賀浜の調査範囲の造礁サンゴは、1998年の調査開始以来、ここ数年は高い割合を維持している。依然として伊豆諸島最大級のテーブル状サンゴ群集であると思われる。造礁サンゴを食害するオニヒトデやその食痕は確認されなかった。その他留意する点としては漁網くずが見られるなど漁具由来のごみが増えており、マイクロプラスチックなど海洋ゴミが問題として注目される今、今後も継続的にカタン崎沖も含めた二地点の造礁サンゴ群集の状況の推移を見守っていきたい。
さらに近年、日本の沿岸では、地球温暖化に伴う海水温の上昇により、熱帯域のサンゴや魚類が増えて沿岸域の生態系に変化が生じ、様々な分野にその影響が及ぶことが懸念されている(藤井 2020)。三宅島のサンゴは温帯域に生息する種が優占的に認めるが、今後その構成が変化することも予測される。海洋島であり黒潮の影響を強く受ける三宅島は、サンゴ群集をはじめとする魚類やそれを捕食する鳥類まで幅広い生態系の分野において、水温をはじめとする海水の状況に強く影響を受ける。このことから、1998年より継続されている三宅島におけるリーフチェックは、三宅島をはじめとする伊豆諸島を含む離島海域の生態系の状況を知るうえで非常に重要なモニタリング調査と位置付けられる。これまでの蓄積されたデータと共に、今後の三宅島海域の生態系の状況を把握し、過去から未来の生態系の変化を知るうえで重要な指標を提供するリーフチェックが今後も継続されることを強く望む。
注1)藤井 賢彦(2020) 地球温暖化・海洋酸性化が日本沿岸の海洋生態系や社会に及ぼす影響. 水産工学 Fisheries Engineering 191 Vol. 56 No. 3,pp. 191-195.
調査メンバー