公益財団法人 日本野鳥の会

野鳥観察・撮影の初心者の方に向けた、マナーのガイドライン

「野鳥や人に迷惑をかけない、マナーを守った野鳥観察・撮影を!」
野鳥観察・撮影をはじめようと思っている方、野鳥観察・撮影初心者の方へ

2022年4月26日
公益財団法人 日本野鳥の会

はじめに

野鳥観察や野鳥撮影は、とても楽しく、誰でも気軽に楽しむことができます。一方で、野鳥の生態を知らないと、野鳥にストレスを与えたり、生息地を荒らしたりと、せっかく楽しませてもらう野鳥たちに迷惑をかけてしまうことになります。また、観察や撮影する人どうしのマナーや公園等を利用する一般の方への配慮が必要になります。

私たち人間が野鳥たちの生息地にお邪魔をして、野鳥観察・撮影をさせてもらっているという気持ちで、彼らの生活を脅かすことなく、敬意をもって接してください。

また、他の観察者やグループにも配慮し、譲り合うことで、誰もが気持ちよく野鳥観察・撮影を楽しめるよう心がけていただければ幸いです。

Ⅰ.野鳥の観察・撮影について

野鳥観察・撮影のマナーの悪い例

道をふさいだり、営巣中の巣や鳥にちかづかないなどの野鳥観察・撮影のマナーを守りましょう

①ストレスを与えないように野鳥との距離を取る

観察時や撮影時には、野鳥と十分な距離を取るよう心がけましょう。
野鳥が飛び立つ、逃げる等の行動は、ストレスを感じた時の行動で、近づき過ぎている可能性があります。野鳥によっては、近づき過ぎた場合、その場で動かなくなったり、防御や攻撃、飛び立つ準備をしたり、警戒の鳴き声を発したりすることがあります。野鳥が体勢を変えていないかよく観察し、変化を感じた場合は、その場からそっと離れましょう。

②営巣中、育雛中の野鳥や巣へは近づかない
巣や巣立ち雛に遭遇した場合、すみやかにその場を離れるようにしましょう。
親鳥は卵やヒナを守るために神経をとがらせています。人間の存在がストレスの原因となり、「この場所は危険」と判断して親鳥が巣や抱卵を放棄したりヒナが十分に育つ前に巣立たせたりする可能性があります。

また、親鳥が驚き、あるいは警戒し、巣を離れてしまった場合、卵やヒナが捕食者にさらされたり、低温にさらされたりすることで、繁殖に悪影響を与えてしまう可能性もあります。

③音声による誘引はしない

観察・撮影しやすいように、野鳥の鳴き声を流して野鳥を誘引することはやめましょう。
鳴き声を流すことによって、オスは、別のオスが縄張りに侵入してきたと勘違いし、防衛のためにさえずったり飛び回ったりします。無駄なエネルギーを使わせるだけでなく、その場所で安心して子育てをしなくなる等、ストレスを与えることにもなります。また、勘違いした親鳥が、縄張りの防衛のために巣を離れてしまうと、卵やヒナが捕食者に狙われたり、低温にさらされたりする等、悪影響があります。バードコールの使用も同様です。

公園等の利用者の中には、本来の姿の自然や環境を楽しむ目的で訪れている方がいます。音声による誘引で改変された自然は、不快感を生むことになります。

④餌付けによる誘引はしない

公園や河川敷等の公共の場、寺社境内等団体の所有地での餌づけによる誘引はやめましょう。
公園等の利用者には、本来の姿の自然や環境を楽しむ目的で訪れている方がいます。餌づけにより改変された自然は、不快感を生むことになります。

また、公共の場所等での餌づけは、ゴミの不法投棄を禁じた条例や環境の改変を禁じた条例に違反する可能性があります。実際にひまわりの種やミルワーム等外来種の植物や動物の持ち込みを制限している場所もあります。

⑤撮影にフラッシュ・ストロボを使用しない

フラッシュやストロボを使用して撮影をするのはやめましょう。強力なLEDライト等の使用も同様です。
野鳥の目は強烈な光に慣れていないため、一時的に視界や視力が悪くなる可能性があり、障害物を避けたり、捕食者から逃げたりする能力が損なわれることがあります。

⑥立ち入り禁止場所への侵入はしない

当たり前のことですが、立ち入り禁止場所への侵入はやめましょう。また、「立入禁止」の看板等がなくても、柵や囲いの中に入ることはマナー違反です。

⑦私有地や団体等の所有地への侵入はしない

私有地に入って、観察・撮影することはやめましょう。
牧草地や畑は私有地です。田んぼの畔(農道を含む)や山道等も、私有地の場合があります。また、霊園や寺社境内等も、公共の場所ではなく団体等の所有地です。その場所が私有地または特定の団体の所有地か分かりづらい場合もありますので、野鳥を観察・撮影する場合は、騒がない、土地を踏み荒らさない等の配慮を忘れないようにしましょう。土地所有者から注意された場合は、速やかに退出するようにしましょう。

たくさんの観察者・撮影者が集まり、交通の妨げや農作業への悪影響があったため、土地所有者がその野鳥を追い払ってしまった事例があります。大勢が押しかけることで田んぼの畔を壊してしまったり、農作物に被害を与えたりすることは、絶対にあってはいけないことです。

⑧公園等公共の場でのマナー

公園や公共の場で三脚を使うときは、園路や歩道を利用する方に配慮しましょう。野鳥に注意が向いていると、周囲への配慮が疎かになりがちです。

また、公園や公共の場で、観察・撮影のために、枝を折ったり、枝を刺したりする行為は、条例や規則違反になる可能性があります。条例や規則等、その場所のルールに従ってください。

自分では迷惑をかけていないと思っていても、周囲の方に迷惑がかかっていることがあります。注意された場合は、真摯な対応をしましょう。

⑨駐車について

公道に自動車をとめる時は、交通規則に従いましょう。
たくさんの観察者・撮影者が集まる場所では、駐車車両が交通の妨げになることや、そこで暮らしているかたの迷惑になります。駐車場を利用する、交通の妨げにならない離れた場所に駐車する等配慮しましょう。

⑩他の観察者・撮影者へ配慮する

野鳥観察の場では、観察・撮影している人にむやみに近づかないようにしましょう。その人が観察・撮影している野鳥を飛ばしてしまう場合があります。望遠鏡やカメラの前を横切ってしまわないように配慮することも大切です。

また、多くの人が集まる場所では、譲り合って観察・撮影することが必要です。大きな声での会話や、携帯電話の使用も避けましょう。ほかの観察者や撮影者の気を散らしたり、不快感を与えてしまったりすることで、トラブルが生じやすくなります。

⑪プライバシーを守る

双眼鏡や望遠鏡、カメラを使うときには、プライバシーに配慮しましょう。
自分や自宅にレンズを向けられれば、気持ちの良いものではありません。建物がある場合、通行人がいる場合は、十分に注意しましょう。また、農耕地や漁港等では、作業中の方に双眼鏡等を向けないよう注意しましょう。

Ⅱ.画像・映像・情報の公開について

①営巣中等の写真や映像をSNSで公開しない

営巣中の写真や巣立ち雛の写真をSNSで公開しないでください。
かわいいヒナの姿や心温まる親子の姿は、素晴らしいものです。しかし、SNS等で公開してしまうと、「自分もこんな写真・映像を撮りたい」と思わせることになります。野鳥の生態を知らない方が営巣場所に詰めかけ、繁殖を放棄させたり、巣立ちを早くさせたりして、野鳥の繁殖行動に悪影響を及ぼす可能性があります。
マナーを守った写真を公開し、野鳥撮影のマナーを呼びかけてください。

②写真コンテストへの応募はマナーを守った写真を!

写真コンテスト等へ応募するときは、マナーを守って撮影した写真を応募しましょう。

③詳しい撮影地は公開しない

撮影地が公開されると、観察・撮影者が詰めかけることになり、交通の妨げになったり、地元住民や公園利用者等に迷惑をかけることになります。

また、撮影場所が特定されないよう、GPS付きのカメラの場合は、画像からGPSデータを外すようにしましょう。画像に写っている人工物や風景、環境をもとに調べて、その場所を特定するようなことも起こっています。場所の情報公開は、都道府県程度におさめてください。

④稀な渡り鳥等の画像や映像、情報は、鳥が撮影地からいなくなってから

迷鳥(飛来することが稀な渡り鳥)や希少な野鳥を撮影したときは、その鳥がいなくなってから公開するようにしましょう。画像や映像の有無に関わらず、珍しい野鳥の情報も同様です。

わずかな情報からでも、その場所を探し出し、たくさんの人が集まるリスクがあります。その野鳥が、その場所から去るのを待ってから「すでにいなくなった」という記述とともに公開することで、野鳥にストレスを与えることや、周辺住民への迷惑も防ぐことができます。

Ⅲ.その他にも気をつけたいこと

①植生へのダメージ、環境の改変

野鳥を観察・撮影をする際、足元の植生や環境の改変に注意しましょう。
足元に希少な植物が生育していることもありますし、多数の人に踏みつけられると、植生の回復に時間がかかる場合があります。また、三脚を置く場所にも配慮しましょう。気づかずに、作物が植えられた畑に侵入してしまうこともあるので、歩道や観察路から外れないようにしましょう。

②ウイルスの拡散に気をつける

高病原性鳥インフルエンザや豚コレラ等が発生した場合、靴の裏等に付着したウイルスを人が運んで拡散させる可能性があります。当日の複数の観察・撮影地への移動は控えましょう。

感染症が流行っている時期には、感染を拡大させないように注意し、観察や撮影の後は、靴の裏、できれば車のタイヤ等の消毒を行ないましょう。

ガイドライン設置の背景

デジタルカメラの普及にともない、アマチュアカメラマンが増加し、野鳥の観察や撮影のマナーを知らずに撮影を始める方も増加しました。加えて、SNSが急速に拡大したことにより、射幸心をあおるような写真が簡単に公開、拡散されるようになり、より良い写真を撮りたいと思うあまりに、マナーに反する行為をしてしまうケースもみられます。また、珍しい野鳥や希少種の写真が公開されると、その場所の情報が一気に拡散され、知れ渡り、多数の観察者や撮影者が押し寄せて、野鳥や地域住民に迷惑をかけることが増えてきました。

バードウォッチングを普及する当会も、その責任を重く受け止めています。バードウォッチングを普及すると同時に、観察や撮影のマナーの普及も合わせて行うことが重要と考え、このガイドラインを作成しました。

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