文=浦達也 自然保護室
小型風力は、発電量が20 kWh未満、支柱の高さ20mくらい、羽の直径15~16mを基準とする。小鳥類がバードストライクに遭った場合、死骸がすぐに他の生きものに食べられてしまうなど痕跡が残りづらいため、実態が把握しにくい。写真は北海道根室市内。
※1小型風力発電
1基の発電量が20 kWh未満で、風車直径が16m以下をさす
※2固定価格買取制度 再生可能エネルギーの導入推進のため、風力や太陽光などで発電された電力を、一定期間、国が定めた金額で買い取る助成制度。略称FIT
東日本大震災以降、東北地方の被災地をはじめ、安全でクリーンな太陽光発電や風力発電への期待が高まり、設置に拍車がかかっています。そのこと自体は歓迎すべきことです。問題は、これら自然エネルギーの発電施設が、皮肉にも、自然環境の破壊や、野鳥をはじめとした生きものを圧迫してしまう例が多く報告されていることです。
当会では、「ほんとうに自然にやさしい自然エネルギー」への改善を目指して、2001年以来、各地で建設されている風力発電施設について、自然環境や鳥類への悪影響を最小化するための方法論と法整備への働きかけを行なってきました。
その結果、法令の改正が実現し、2012年から、発電量が1万kW以上の風力発電施設の建設にあたっては、法による環境アセスメント(環境影響評価法)が義務づけられるようになりました。
しかし、2016年以降、環境影響評価法の対象にならない発電量20 kWh未満の「小型風力発電(※1)」の設置が、北海道や青森県の一部を中心に急増してきました(図1)。急増の背景には、国の固定価格買取制度(※2)が大きく関係しています。
小型風力発電の買取価格は、2017年度まで55円/kWhと、他を抜きん出て高値でした(発電量20 kWh以上の風力発電施設は20円/kWh)。さらに小型の場合、設置時に工事の届出をする以外の許可申請やアセスメントの必要もなく、設置費用が安価で、工事期間も1~2か月程度と短いことから、建設ラッシュを招いています。
急増中なのは、上の写真のように発電量の合計が20 kWh未満になるよう5kWh級の風車×4基を少しずつ間をあけて、ずらりと建てる形式です。こうした風車が、海に面した手つかずの原野などに無秩序に立ち並ぶことで、景観が損なわれることはもちろん、野鳥への影響も懸念されます。
環境アセスメントの対象になっている大型風車では、羽根が回転している30~120mの高さを飛翔する猛禽類が、主にバードストライク(※3)に遭っています。一方、小型風車自体の高さは15~30m、地面から風 車の羽根までの高さは10mほどで、この高さを飛ぶのは、スズメサイズの比較的身近な小鳥類です。英国の長年の調査によると、小型風力発電は、大型よりもバードストライクによる野鳥の死亡率が上がるとされています(図2)。また、風車の設置箇所を決める根拠となる環境省発表の風況情報は、地表から50m近辺の風況であり、小型風力の場合は、それより下の地表に近い風を利用します。風は地表に近いほど乱流が起こりやすいため、思ったような規模で安定した発電をすることができず、経済的な利潤は見込めないだろうといわれています。
こうした情勢を受けて、現在、道北を中心とする地元自治体では、「小型風力発電導入にあたってのガイドライン」の制定が相次ぎ、当会が独自に調査しただけでも、北海道、青森県を中心に30以上の市町村がすでにガイドラインを掲げています(表1)。
国も小型風力発電の導入時期が終了したとみなしたのか、2018年度からは買い取り価格を18円/kWへと急激に引き下げました。これで導入件数が減少する可能性もある反面、スケールメリットを図ろうと施設がより大規模化し、より無秩序な建設が広がる可能性も出てきました。
自然再生エネルギーの普及が、皮肉にも自然破壊につながらないよう、当会は小型風力発電での影響事例の把握に努め、それを基にガイドラインの制定、さらには条例による環境アセスメントを義務づけるよう、自治体に働きかけを行なっていきます。