公益財団法人 日本野鳥の会

ツバメが直面する危機

近年、身近な夏鳥・ツバメが全国的に減っています。その背景には、餌場である水田や畑の減少、巣作りができる軒のある日本家屋の減少など、私たちの暮らしの変化が大きく作用しています。また、東日本大震災の津波による繁殖地の減少や、福島第一原子力発電所での放射性物質の漏出事故の影響も新たな懸念材料となっています。
震災から1年あまりが経過し、福島第一原子力発電所事故の警戒区域と避難指示区域が再編されたため、原発事故のツバメへの影響を探るために、原発事故被災地を5月に取材しました。


放棄水田(飯舘村):原発事故さえなければ田植え風景が見られていた水田。草地化した水田には、ツバメの巣材となる泥はない。飯舘村では水田も川も森も放射性物質に汚染された。

原発被災地におけるツバメの生息状況

南相馬市


地盤沈下(南相馬市):地盤沈下で沈んだ水田。今年の4月まで、放射性物質の影響で立ち入りができなかった南東部の地区。まだ多数の行方不明者がここにいる。

南相馬市南東部は、この4月まで警戒区域指定により立ち入りができませんでした。行方不明者の捜索や瓦礫の撤去作業が行なわれておらず、当時のままの状態です。海岸付近にあった田畑は地盤沈下により広い範囲で浸水し、ツバメの姿を確認することはできませんでした。浸水していない陸側の水田は放棄地となっており、残された集落にわずかのツバメが確認できました。避難指示解除準備区域に指定されている北西部は比較的放射線量が高く、約125世帯の半数が避難し、放射性物質に汚染された水田の作付けが2年間規制されています。放棄水田には雑草が茂り、ツバメの姿はわずかでした。
避難せず残って生活をしているFさんにお話しを伺うと、自宅では2年続けてツバメが繁殖していたが、今年は来なかったとのことでした。息子さんたちはすでに他県へ移住したのに、日々被曝の危険に晒されながらもツバメのためにヘビよけの工夫をしているFさんの姿を見ると、なんとも胸が熱くなりました。

飯舘村


放射線量の測定(飯舘村):地上で8.252μSv/h の値を示す。汚染された泥を巣材にすると、卵やヒナは被曝する。

広範囲にわたって放射性物質に汚染され、全村民が避難している飯舘村の北西部も訪れました。この地区は計画的避難区域に指定されており、私たちが訪れた時にも空間で4~5μSv/hの放射線量がありました。セイヨウタンポポが咲く放棄水田が一面に広がり、各家屋はカーテンが閉じられ、飼われていた犬や猫が家主の帰りを待っています。村全体がひっそりとしていて、ツバメの姿はほとんど見られず、巣を1つ確認しただけでした。

相馬市

最後に訪れたのは、制限区域指定を受けていない相馬市です。
市内で津波の影響がなかった地区では例年通り田植えが進められ、多くのツバメが飛び交っていました。また古くからの商店街でも巣と抱卵中の親鳥がたくさん確認できました。


抱卵するツバメ(相馬市):道の駅ではたくさんのツバメが抱卵していた。


田植え(相馬市):田植えが行なわれている相馬市では、たくさんのツバメが飛来していた。


ツバメ(相馬市):春、南の国から渡ってきて子育てをするツバメ。ツバメは私たち日本人の里山の暮らしと共に生きてきた。

環境変化の影響と被曝の懸念

今回の取材の結果、制限区域内のツバメの数は極端に少なく、その原因としては、放射性物質の影響で広い範囲で水田が放棄地となっていること、また人が住まなくなったため、カラスなどの天敵に襲われやすくなっていることなどの現状が確認できました。チェルノブイリ原発事故(1986年)では、放射性物質の影響によりツバメの体の一部が白化する突然変異の事例が報告されています。今後は福島でもツバメをはじめ野鳥だけでなく野生生物全般への被曝の影響が懸念されます。
このたびの原発事故は自然界に取り返しのつかない影響を及ぼし、古くから営まれてきた暮らしや文化をも破壊しようとしています。被災地では人も野生生物も止むことのない放射性物質の脅威に苦しんでいます。
今後も、引き続き調査し、レポートしていきます。

(写真/安藤康弘)

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