文=葉山政治 自然保護室/安藤康弘 会員室
協力=(公財)日本自然保護協会(NACS-J)
①辺野古と大浦湾一帯。沿岸にサンゴ礁が広がる(写真/村山嘉昭)
現在、米軍の普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、同県名護市の辺野古崎及び大浦湾(以下「辺野古」)が、新基地建設地として埋め立てられようとしています。
辺野古一帯は、長い年月をかけて自然が作り上げた生物多様性に富む海域です。サンゴ礁だけでなくジュゴン(絶滅危惧Ⅰ類)が海草(うみくさ)を食(は)む藻場(もば)、砂場、泥場や岩礁など多様な環境があり、そこには絶滅危惧類262種を含む5千300種以上の海洋生物の生息が確認されています。この海域は、環境省の「ラムサール条約湿地潜在候補地」の一つに選定され、沖縄県の自然環境保全指針でも評価ランクⅠの「自然環境の厳正な保護を図る区域」とされており、まさに生物多様性のホット・スポットです。
国際自然保護連合(IUCN)は、辺野古での新基地建設計画を受けて、2000年の第二回世界大会で、日本政府に対して大浦湾を含む沖縄本島北部一帯の自然環境の保護、およびジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全を勧告しました(写真④⑤参照)。また04年の世界大会では、日米両政府に対し、再度、同内容の保護勧告を行なうとともに、新基地建設計画や米軍北部訓練場ヘリパッド建設計画について、専門家を交え、計画中止も含めた環境影響評価を行なうように勧告しました。IUCNのメンバーである当会も、05年に他のNGOと連携し、政府に対してIUCNの勧告の履行を求める要望書を提出しました。
14年11月には、ラムサール条約事務局が環境省に対し、環境影響評価に基づく保全措置と情報公開を求める書簡を送りました。これを追って、当会を含む国内NG0・NPO17団体は共同で、環境省、外務省、防衛省などに対し、ラムサール条約事務局の書簡への誠意ある回答を求める声明文を送りました。
しかし政府の対応は、「防衛省沖縄防衛局において、環境影響評価手続きはすでに終了し、当該評価に基づき保全措置を講じていく」また当該地域を重要な湿地として認識しているかという質問に対しては、「その範囲が明らかでないため回答できない」(14年11月17日の187回臨時国会)」との回答があるのみです。
②大浦湾に生息する、学術的にも重要なアオサンゴ群集(写真/中井達郎)
③沖縄島周辺海域のサンゴ群集が壊滅状態のなか、大浦湾のハマサンゴ群集は良好な状態で生き残っている(写真/中井達郎)
④⑤沖縄県北部やんばるの森に生息するノグチゲラ④とヤンバルクイナ⑤。やんばるの豊かな森から流れる水が、辺野古の多様な環境を形成している(写真/戸塚 学)
⑥海草のなかでくらすコブヒトデ。海草はジュゴンの餌になる(写真/NACS-J)
⑦辺野古で撮影されたジュゴンとウミガメ(写真/東恩納琢磨)
⑧鳥羽水族館にいるジュゴン。環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅰ類(写真/NACS-J)
今年3月には「ボーリング調査」が再開し、巨大なコンクリートブロックが海底に投下され、サンゴや海草が押しつぶされていることが確認されています。また、最大幅25m、長さ300mの調査用の巨大な「仮設岸壁」を建設する作業が進められ、政府は埋め立て工事を強行しようとしています。
これを受けて今年3月、当会を含む国内82団体、国外35団体は、日米両政府に対して作業の中止を求める声明を発表し、広く賛同の署名を集める「国際緊急署名」を展開しています。
地元沖縄では、「基地の県内移設反対」「辺野古の自然環境を残すべき」という主張に立って、長期にわたる反対運動が行なわれています。取材をすると、「辺野古の海はずっと昔から、私たちに海の恵みを与えてくれる穏やかで平和な場所でした」「ここ(キャンプ・シュワブ)にいる海兵隊は、明日には中東などの戦地に赴き、前線で戦わなければならない。基地があるということは、その行為に加担しているということ。私はそれに最も胸が痛む」と語ってくれました。
現在、政府は奄美大島からも大量の土砂を運び、辺野古の埋め立てに使おうとしています。島ごとに独自の進化を遂げ、固有な生態系や種を持つ土地の間で、大量の土砂を移動させ、豊かな海を埋め立ててもいいものでしょうか。署名へのご協力をお願いいたします。
国際緊急署名「いのちの海とサンゴ礁を守れ」
http://www.foejapan.org/aid/henoko/pr_150325.html
(問)国際環境NGO FoE Japan(エフ・オー・イー・ジャパン)
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
電話/03-6909-5983 Fax/03-6909-5986
◎すでに国内外からの10,783 筆の署名を、防衛省に提出しています(2015 年5月13日)。
辺野古の浜辺で行われる米軍海兵隊の演習(写真/安藤康弘)