公益財団法人 日本野鳥の会

自然を壊さないオリンピックを

葛西臨海公園へのカヌー競技施設建設計画

文=葉山政治 自然保護室

柳池での昆虫観察会

①柳池での昆虫観察会
②ギンヤンマを手に持つ子供
③アカハラ
④オオルリ
⑤キクイタダキ

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会において、カヌーのスラローム競技施設が葛西臨海公園に計画されており、日本野鳥の会の財団事務局と日本野鳥の会東京などが計画変更を求めていることは、各種報道でご存知の方も多いと思います。

世界有数の渡り鳥の楽園だった、葛西沖の干潟

葛西臨海公園がある江戸川区葛西は、昭和30年代頃までは、夏はアサリ、ハマグリ、冬は葛西海苔と呼ばれるアサクサノリの生産で、海産物の豊かな漁村でした。また、葛西沖は東京湾奥部に広がる新浜、浦安、行徳と続く広大な干潟で、世界有数の渡り鳥の渡来地でした。
その後、高度経済成長に伴う海洋汚染、残土処分問題なども持ち上がる中で、地盤沈下による土地の水没問題を解決するため、1972年に「葛西沖開発土地区画整理事業」の実施が決定され、その一環として、平成元年に葛西臨海公園が開園しました。
当時のことを記録した『今よみがえる葛西沖』(※1) には以下のように記されています。
『人々が「自然との調和」に目を向けるようになったとき、東京湾の海岸線は埋め立てによってはるか沖合に退いており、都内ではただ一つ葛西の海岸のみが残されていた。葛西沖開発計画は、東京で人と海がふれあえる“最後の砦”として、葛西の海岸や三枚洲をすみかとする鳥や、海の生き物を守り、人・水・緑がかなでる新しい街を作りたいという多くの人たちの願いを受けて検討かつ決断されたものである。』
このようにして作られた葛西臨海公園は、開園後25 年の年月を重ね、いまでは年間320万人が憩い、自然とふれあえる場所となっています。

都市において自然とふれあえる貴重な場所

競技施設建設予定地は葛西臨海公園の西側約20ヘクタールのエリアです。25 年の歳月を経て、ここには芝生の広場、小さな水路や池、樹林など、さまざまな自然環境が再生しています。
226種の野鳥をはじめ、昆虫140種、クモ類80 種などが記録されるなど、豊かな生物相を有しています。いまや都心ではめったに見ることのできない生きものと身近にふれあえる貴重な場所であり、ここを次世代に残していく責任が私たちにはあると思います。

自然環境を壊さない場所に建設予定地の変更を

昨年の夏以降、計画変更を求めて招致委員会との交渉や国際オリンピック委員会(IOC)への要請などを行なってきましたが、開催都市決定までは、IOCへ出している計画は変更できないということで、こちらの要求を伝えるまでに留まっていました。また、環境影響評価の資料や会場予定地の選定資料なども非公開のままでした。今後は、こうした資料の公開と葛西の代わりとなる候補地の選定を求めていきます。
2月には東京都と日本オリンピック委員会(JOC)が中心となって、大会組織委員会が設立される予定です。計画変更の活動はこれからが本番です。葛西臨海公園を将来にわたって自然とふれあえる場として残すために活動を続けてまいりますので、ご支援をお願い致します。現在インターネット上で、この活動への賛同の署名を集めています(※2)。
今後の動きは、当会のホームページ(※3)や日本野鳥の会東京のブログ(※4)でもお伝えしていきます。

現在の葛西臨海公園

競技場計画での改変区域

競技場イメージ

葛西臨海公園地図

⑥バードウォッチングやサイクリングなどさまざまな方法で、のんびりと自然を楽しむ姿が見られる、現在の葛西臨海公園
⑦競技場計画での改変区域 (2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会初期段階環境影響評価書より)
⑧競技場イメージ
http://tokyo2020.jp/jp/plan/ outline/

写真提供/① ② 鳥類園友の会 ③ ④ ⑤ 葛西野鳥の会
※1 東京都建設局 平成7年発行
※2 葛西臨海公園 ネット署名
でインターネット検索
※3 http://www.wbsj.org/ activity/conservation/habitat-conservation/kasai_olympic/
※4 http://tokyo-birders.way-nifty.com/

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