文=田尻浩伸 保全プロジェクト推進室
①フレシマ地区には、シマフクロウ、オジロワシ、オオワシ、タンチョウが生息。いずれも国内希少野生動物種、天然記念物、絶滅危惧種なに指定されている希少種だ。植物では27種の希少種を含む335種が確認されている
2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、持続可能な自然エネルギーへの転換は、社会的な要請であり、当会でも原発の廃止と自然エネルギーの推進を訴えています。しかし、その自然エネルギーが生物多様性を脅かすものであってはなりません。
特に風力発電所は、立地条件によっては野鳥への影響が懸念される施設であり、さらに風車が立ち並ぶことによる景観の改変、近隣住民への騒音の問題なども懸念されています。
当会では、風力発電所の建設に関する政府の委員会に参加し、国の施策に意見を述べているほか、個別の事業者の建設計画を精査し、環境への配慮が足りない場合には意見書を提出したり、場合によっては現地調査を行ない、計画の見直しを求めています。
②クロユリ ③シコタンキンポウゲ ④オジロワシ
⑤オオワシ ⑥シマフクロウ ⑦タンチョウ
そうした一例が、2012年に起こった北海道根室市フレシマ地区の海岸地域への風力発電所建設計画です。フレシマ地区は、今では希少となった北海道の原野が残る場所。
海岸には高さ40 mの段丘が続き、海から森に至るなかに小川や池沼や湿原が点在。国指定の天然記念物で絶滅危惧種であるオジロワシ、タンチョウ、シマフクロウが生息し、越冬期には多数のオオワシも採食や休息にやって来ます。
風力発電所の風車に野鳥が衝突する「バードストライク」は、ワシ類では国内で38 例が記録されており(2014年1月29 日現在)、当会では、フレシマでの風力発電所建設がこれらの鳥類に重大な影響を及ぼすことを懸念し、計画地の変更を事業者に求め、同時に当会支部や他の自然保護団体と協力しながら環境省や北海道、根室市など行政にも計画の見直しを働きかけてきました。
⑧飛翔調査を基にした、建設計画地でのワシ類の飛翔ポテンシャルマップ。赤い色が濃い場所ほど、飛翔頻度が高いことを示す
⑨2014年5月19日、14か月を費やした調査結果と共に、北海道知事宛の要望書を道庁担当者へ手渡した
⑩根室市内の風力発電施設の風車に衝突死したオジロワシ
(当会根室支部提供)
計画変更を求めるには、科学的根拠が重要です。当会では、まず、フレシマ地区に飛来するワシ類の飛翔調査を14 か月にわたって行ないました。その結果から東京都市大学の北村亘講師の協力を得て、計画地域でワシ類が飛行しやすい場所を予測した「飛翔ポテンシャルマップ」(⑧)を日本で初めて作成しました。さらには、風速や風向きによって向きや回転数を変える風車の翼に、ワシ類が1年間に衝突する数を東北鳥類研究所の由井正敏氏の協力により推定し、年間衝突数0・39 羽~1・01 羽というより具体的なリスクを導きだしました。
こうした科学的解析を基に、2014年5月19 日、計画の認可に大きな影響を与える地元自治体、北海道知事・北海道教育長宛に、事業者への指導を求める要望書(当会、日本自然保護協会、当会根室支部連名)を提出するに至りました。
⑪フレシマに風車が建設された場合のイメージ図
⑫風車の高さと、ワシ類の飛行モデル図。海から斜面に向かって上昇する風を利用して飛ぶワシが、風車の回転翼(ブレード)に衝突する例が多い
そして要望書提出から2か月後の7月16 日。同計画の事業者である電源開発株式会社から、計画の中止が発表されました。事業者側は中止の理由について「経営上の問題」としていますが、実質の白紙撤回に至ったことは歓迎すべきことです。
風力発電所の設置が増えるなか、野鳥ひいては生物全般の生息環境に影響を与えることがないよう、適切な環境影響評価と地域の合意形成を行なうことは、非常に重要なことです。
当会は今後も、人間の生活はもちろん、生物と自然環境にとっても持続可能な、真の自然エネルギーの推進に貢献する活動を続けていきます。
◎この取り組みに関する詳細はこちらをご覧ください。
渡邊野鳥保護区フレシマに隣接する風力発電施設建設計画への対応について