公益財団法人 日本野鳥の会

生息環境をそのまま保全する シマフクロウのための野鳥保護区

文=松本潤慶(保全プロジェクト推進室)

シマフクロウの個体数回復に向けて

シマフクロウと巣箱の写真

明治時代までは北海道全土に約1千羽いたといわれるシマフクロウは、1980年代には100羽以下までに減少しました。しかし、1993年に開始された国の保護増殖事業や、それ以前から行なわれていた関係者の取り組みにより、2017年には約160羽まで個体数を回復しました。
減少の大きな要因は、土地の開発等によって、繁殖のために必要な樹洞を持つ天然の大木が減少し、河川環境の悪化で餌となる魚が少なくなったことでした。そのため、絶滅が危惧される本種への緊急措置として、環境省を中心に道内に200か所の巣箱と12か所の給餌場が設置されたことが、個体数回復に直接つながったといわれています。
当会は、2004年から独自の活動として、道内にシマフクロウのための野鳥保護区(※)を設置しています。今ある生息地を開発から守り、巣となる希少な大木や餌の捕れる環境を
保全していくためには、土地を購入してしまうことがもっとも確実な方法だからです。現在は道内に14か所1千8haの野鳥保護区を設置し、11つがいの生息環境を保全し、定期的にヒナが巣立っています(写真2・3)。

保護区設置の2つの目的

シマフクロウの保護区設置には、2つの目的があります。繁殖地の保全と分散地の確保です。シマフクロウはつがい単位でなわばりを形成します。1組のつがいには、巣となる直径1m以上の樹洞のある大木が3~4本あり、充分な餌を捕るために10㎞ほどの川に沿って広がる針葉樹と広葉樹が混ざった森が必要です。まずはこうした条件を満たし、現在繁殖地になっている土地を保全することが、1つめの目的です。
また、非常になわばり意識の強いシマフクロウは、わが子であっても自分のなわばりに入ることを許さないため、若鳥は巣立ち後、新たに自分の生息地「分散地」を探さなければなりません。せっかく新しい命が誕生しても分散地がなければ、個体数の増加は望めません。分散地が見つからず、両親のなわばりまたは近隣地に留まってしまうと、両親であるつがいは、若鳥の追い出しに労力がかかって次の繁殖に失敗したり、近親交配が起こることもあります。そのため、若鳥の分散地になり得そうな土地を確保することが2つ目の目的です。

NGOだからこそできる保護区設置

国立公園や鳥獣保護区など法的な力で保全されている生息地もありますが、当会が保護区としているのは、そうした公的な保護指定の網からもれて、開発の危機にある民間所有の比較的小さな森で、そうした森を購入し、保護しています。森をつなげるように確保していくことで、若鳥の分散がより確実になるという効果もあります(図4参照)。土地購入にあたっては、国や研究者からの情報を元に、現在の繁殖地や分散地の条件を満たし、法的に守られていない場所を洗い出し、さらに周辺調査を行ないます。その中で、保全の緊急性などの諸条件から選定した土地について、所有者の方と交渉を行なっています。
かつて、当会所有の野鳥保護区に隣接する私有林が、突然、境界線ギリギリまで皆伐されてしまったことがありました(写真6)。こうした事態を防ぐためにも、現在の繁殖地や、今後分散地となりうる土地を少しずつでも所有者から買い取ったり、協定を結んだりして保護区を設置しているのです。
シマフクロウの生息地について、情報収集及び調査をし、その生息地の買い取り条件を精査したうえで、交渉、買い取りを行なう、さらに買い取って野鳥保護区とした後は、巡回や繁殖に必要な環境整備、モニタリング調査を定期的に行ないます。これら一連の活動を総合的かつ迅速に行なえることが、私たち日本野鳥の会ならではの強みです。
土地購入の資金をはじめ保護区の調査や管理にかかる費用は、すべて支援者の皆さまからの寄付で支えられています。シマフクロウを絶滅の危機から救うために、皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。

写真や図など

①シマフクロウ
両翼を広げると180㎝になる世界最大級のフクロウ。かつては北海道全域に分布していたが、現在は東部の知床、根室、日高地域などで見られるだけになってしまった。川、湖沼で魚類やカエルなどを捕食し、広葉樹の大木の樹洞に営巣する。絶滅のおそれが最も高い絶滅危惧ⅠA類
②2016年に当会が設置した巣箱。翌年、この巣箱から1羽のヒナが巣立った
③野鳥保護区の給餌いけすに現れた幼鳥と親鳥。給餌で繁殖成功率があがることがわかっている
④シマフクロウ保護区のイメージ 
現在ある生息地と生息地を結ぶ場所に、若鳥が定着できる森を保全し、分散を容易にする
⑤シマフクロウのための野鳥保護区の様子。森林の中に、餌が捕れる川を有している
イラスト:安斉 俊
⑥赤い印より右側が当会の野鳥保護区。同じように樹木があった隣地は、境界線ギリギリで皆伐されてしまった。民有地ではいつ森が伐られてしまうかわからず、止める術もない

※ 野鳥保護区
当会が、タンチョウやシマフクロウなど希少種の生息地を買い取り、保護区としている地区のこと。ここではシマフクロウの保護区をさす
◎画像は調査の過程で記録用として撮影したものです

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