レンジャーとは、一口に言うなら「人と自然の架け橋となる存在」です。レンジャーが活躍する舞台はサンクチュアリと呼ばれる、「野生鳥獣の生息地の保全」と、「人と自然のふれあいの場」という大きな二つの役割を持つ、自然保護のための場所です。レンジャーは、サンクチュアリの自然を守るために自然の調査や管理をしつつ、来訪者が自然と触れ合えるように自然体験の手助けを行っています。全国8ヶ所あるサンクチュアリに、1ヶ所につき2~10人のレンジャーが配置され、具体的には次のような仕事を分担しながら活動しています。
レンジャーが勤務するサンクチュアリは、野生生物の生息地です。そこに暮らす野鳥や生き物にとって、自然環境がどのような状態にあるのか、常に気を配らなければなりません。たとえば、環境が年毎にどのように変化をするのかを調べるためには、同じ場所、同じ方法で何年も調査を続けるモニタリング調査をおこないます。また、特に保護したい種類の生き物がいる場合は、まずはその生活や行動を中心に調査する生態調査などをおこないます。
レンジャーは双眼鏡やメジャーなど、調査に必要な道具を持ってフィールドに出かけます。ときには数kmの山道を歩きながら、時には湿原のぬかるみで泥まみれになりながら、時には氷点下の雪原で寒さに震えながら、自然の中から目的とするデータを集め続けるのです。これら科学的なデータの蓄積は、サンクチュアリの自然を守るための大切なデータとなります。
レンジャーが行う自然環境の調査からは、様々なことがわかってきます。この調査データを利用して、サンクチュアリの自然環境をより豊かにするのが自然環境の管理作業です。
サンクチュアリには、それぞれに目指している(望ましい)自然環境があります。あるサンクチュアリでは、特に保護したい種類の生き物が安心して暮らせる自然環境を維持すること、また別のサンクチュアリでは、せまいエリアで多くの種類の生き物が暮らせるような多様な自然環境を目指しています。レンジャーは調査データを元に、どのような環境を作り、また維持するかを検討し、計画を立て、管理作業を実施してゆきます。
水鳥の休息地を確保するためには、開けた干潟や水面を維持することが必要です。また、放置すれば林になってしまう場所に、多様な植物が生えてくるように背丈の低い草原を作ることが必要になる場合もあります。作業の目標を定めたら、レンジャーは鎌や草刈機、ときには耕耘機などを使って作業に汗を流します。また帰化植物の駆除や、来園者が安全に利用できるように観察路周辺を管理するのも大切な仕事です。もちろん管理後には本当に野鳥や生物にとって棲みよい自然環境となったのかどうか、効果を計るための調査をおこない、その結果から管理方法を検討しなおすことは、この仕事に欠かせない作業です。
サンクチュアリへの来園者は、8ヶ所で年間約33万人にのぼります。訪れた方に自然との触れ合いを楽しんでいただき、自然の仕組みや大切さに気づいていただくことは、レンジャーのもっとも重要な仕事のひとつであり、また華の部分でもあります。
来園される方の目的や人数は、散策や観光、学校団体の学習など、千差万別です。レンジャーは多様なニーズにあわせて、自然と触れ合うための様々なプログラムを提供します。たとえば、ネイチャーセンターでの季節の見どころ紹介や質問に答えること、自然観察会やイベントを開催すること、展示物や解説板、ワークシートを作成して自然を紹介すること、またニュースレターやホームページで情報を発信することなど、驚くほど多岐にわたります。来園者によりよい自然との触れ合いを提供するため、レンジャーはこれらの企画に頭を悩ませ、下見や情報収集に奔走し、教材や展示物の作成に追われています。
自然と触れ合う地域の市民が増えることによって、サンクチュアリにもファンが生まれてきます。より深く自然を知りたい、大好きなサンクチュアリの自然のために何かしたい、という人たちの参加の場として、ボランティア活動があります。
レンジャーにとって、ボランティアは心強い味方です。多くのボランティアから協力を得られれば、自然環境の調査や解説など、活動の幅を広げることができるのです。ボランティアとして参加される人の経験や技術は様々です。このためレンジャーは集まったボランティアのパワーを、サンクチュアリや地域の自然のために生きるようコーディネートをする必要があります。活動を通して自然を守ることについて深く学んだ市民が増えることは、地域の自然を守る推進力にもなります。レンジャーには自然と関わる技術だけでなく、人と関わる能力も必要とされるのです。
レンジャーはサンクチュアリの自然を守ることが仕事です。しかし、サンクチュアリの中の自然にだけ目を向けているのではありません。サンクチュアリ周辺の、地域の自然の状態を知り、必要であれば自然保護のための情報提供や提言を行うことがあります。
サンクチュアリ周辺の自然が守られなければ、やがてサンクチュアリの自然は孤立し衰退してしまいます。レンジャーは地域の自然がどのような状態なのか、常に気を配る必要があります。特に当会直営のサンクチュアリでは、積極的に地域の自然保護に関わっています。ウトナイ湖サンクチュアリのレンジャーは、ウトナイ湖の周辺の流域や湿原を守るため、勇払原野の保全運動に携わっています。鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリのレンジャーは、タンチョウ保護のために生息地を監視するほか、タンチョウが子育てできる湿原を買い取り、野鳥保護区にする活動をおこなっています。
日本野鳥の会では、1997年よりプロのレンジャーとなる人を育成するために、『レンジャー養成講座』を開催しています。(レンジャー養成講座の詳細はこちら)