(写真:佐藤信敏)
2000km以上の旅をして日本に訪れるツバメ。子育てには緑地や水辺などの環境がかかせない。
ツバメは古くから、人間の暮らしのそばで子育てをしてきました。建物に巣をかけ人の気配を利用することで、天敵が巣に近づけないようにしてきたのです。私たち人間も、軒先のツバメの巣を縁起物として受け入れてきました。ツバメが飛び交う風景は、人が自然と共にある日本の原風景です。ところが、十数年前から、身近な野鳥であるツバメが減ってきているという声が聞こえるようになりました。
日本野鳥の会は、ツバメの現状を明らかにするために2013年からの10年間に、市民参加型の「ツバメの子育て状況調査」を実施してきました。調査結果からは、ツバメと身近な生きものたちに迫る危機が見えてきました。
「ツバメの子育て状況調査」には、10年間でのべ6,443人から12,351巣もの観察情報が集まりました。このデータを分析すると「過疎化や人口減少の影響で、ツバメの営巣が減っている可能性がある」、「都市では多くのヒナを育てられない(図1)」、さらに「ツバメの子育て失敗要因のうち、人間による巣の撤去が1割を超える(図2)」ことがわかりました。
都市化するとツバメのヒナの数が減る
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市街地のヒナの巣立ち数は、平均して3.86羽と4羽を下回り、都市の郊外と比較をすると約0.4羽分少なくなっています。巣立ちヒナ数が4羽を下回ると将来的にツバメの生息数が減少していくという試算があります※1。10年間少子化傾向に変化はなく、都市のツバメにとっては、苦しい状況が続いています。 |
共生していたはずの人間がツバメの脅威のひとつに
子育ての失敗では、天敵に襲われ失敗した割合が35.6%と最も高く、糞が汚いなどの理由から人間が巣を落としたケースは11.5%を占めました。天敵を避けるために人の暮らしの中で命をつないできたツバメですが、人そのものが脅威となりつつあります。 |
ツバメが多くのヒナを育てられないのは、エサとなる虫がたくさんいる豊かな自然が都市部から減ってしまっていることを示し、人間が巣を撤去してしまうのは、自然や命とのふれあいが減り、生きものを受け入れる文化が廃れてきたからかもしれません。
人の近くで生きるツバメのような身近な野鳥は、人間活動の影響を受けやすく、別の調査ではスズメやコサギなど他の身近な野鳥の減少も報告されています※2。今、身近な生きものたちのにぎわいーー生物多様性が失われつつあるのです。
(写真:佐藤信敏)
巣立ったヒナにトンボを与える親ツバメ。多様な生きものたちのにぎわいが、ツバメの子育てを支えている
身近な野鳥たちを守るためには、彼らを支える植物、昆虫、動物など身近な生物多様性をまとめて保全する必要があります。しかし、保全の指標となる全国的な野鳥の生息情報は、圧倒的に不足しています。また、ツバメや身近な生きものと共存する心を育んでいくことも重要です。
当会は、市民参加型の野鳥観察記録データベース『eBird Japan』を活用し、日本のすべての野鳥を全国的に網羅したビッグデータを集め、身近な生物多様性の保全やネイチャーポジティブ※3に貢献するとともに、ツバメの子育てを見守る文化を絶やさぬ普及活動も続けていきます。
100年先にもツバメたちが私たちのそばにいる―――野鳥と共存する未来をめざす活動を、どうかご支援ください。
※1.野鳥 2016年7月号「日本のツバメのいま」
※2.全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう2016‐2021(2021)
※3.ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失をとめて回復軌道に乗せることを意味する。2022年12月のモントリオール開催の生物多様性条約第15回締約国会議で世界目標となった。
ツバメの子育ての様子を観察し、巣立ち数や失敗の原因などをインターネット上の専用サイトで広く情報を集めて、現状を詳しく知るための調査。昨年度末にeBird Japanに役割を引き継ぐ形で調査を終了しました。これまでのご協力ありがとうございました。
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ツバメと人の良好な関係を広く普及するため、2019年度からツバメの子育てを温かく見守っている団体に感謝状を贈呈しています。また、ツバメの観察方法や見どころを紹介するパンフレット『ようこそツバメ』の無料配布や、ツバメの生態を知ってもらうために集団ねぐらの観察会なども行っています。
「eBird」はアメリカのコーネル大学鳥類学研究室が運営する世界的な市民参加型の野鳥観察記録データベースです。当会は、2021年に同研究室と協働で、日本語版「eBird Japan」を開設しました。eBirdには世界規模で年間1億件以上の野鳥目撃情報が登録されており、さまざまな鳥類保護や調査研究活動に活用されています。
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