公益財団法人 日本野鳥の会

シマアオジの調査・保護活動

シマアオジ

シマアオジ
全長約15センチ。夏鳥として北海道の草原などに飛来。オスの夏羽は鮮やかな黄色が特徴。低木の枝や草にとまり、透明な美声でさえずる。

これまでの活動

シマアオジの世界分布

繁殖地は、東はロシアのサハリン、カムチャツカ半島、アムール地方から、西はフィンランドあたりまで、ユーラシア大陸の北側に広く分布する。繁殖地に比べて越冬地は狭く、中国南部、インドシナ半島、インド北東部など。日本国内では北海道のほかに、1976年に青森県むつ市で、1982年には秋田県の八郎潟干拓地で巣が見つかっている。

渡り鳥「シマアオジ」の世界的減少

北海道の草原で繁殖する渡り鳥シマアオジは、現在、日本で繁殖する野鳥のなかで、最も国内絶滅の危機にある種の一つです。2016年、環境省が北海道内で過去にシマアオジの繁殖記録があった場所で確認調査を行なったところ、サロベツ湿原でわずか3つがいの繁殖が確認できただけでした。1970年に同じサロベツ湿原で行なわれた調査では、シマアオジはもっとも数の多い種であり、繁殖も牧草地、海岸砂丘の草地、湿原などさまざまな場所で行なわれていました。 北海道全域で見られていたシマアオジが、各地の観察会で見られなくなってきたのは、1990年代になってからです。環境省のレッドリストでも、1998年には準絶滅危惧種でしたが、2007年には絶滅危惧Ⅰ類となってしまいました。「草原のフルート奏者」とも呼ばれるその姿は、もはや見ることが難しい現状です。シマアオジの減少は、世界的にも起きています。シマアオジの繁殖地は東アジアを中心に次第に広がり、20世紀半ばにはフィンランドまで達していました。越冬地は中国南部から東南アジアで、秋には数万羽規模の渡りの群れが中国で見られたそうです。しかし、1990年代になって、北海道のシマアオジの減少が指摘されはじめ、いくつかの調査研究が行なわれた結果、ヨーロッパでは80%以上も個体数が減少しており、一部の国では消滅していることも明らかになりました。

中国の捕獲で激減か

シマアオジが減少した要因の一つに、渡りの中継地である中国での捕獲が指摘されています。シマアオジは中国の稲の収穫期に群れで渡って来るため、古くから米を食べる害鳥として捕獲され、食料とされていました。1980年代以降の経済成長に伴って、中国では野生動物の売買が急増し、特にシマアオジは「空飛ぶ朝鮮人参」とも言われて人気があり、広東省ではシマアオジを食べる観光祭りが開催されるなど、大量に捕獲されていました。その後90年代にシマアオジの減少が指摘され、中国での捕獲や市場での売買が禁止されましたが、今でも違法な捕獲や闇市場での摘発が後を絶たない状況です。また、東南アジアの越冬地では、保護のレベルも低く、密猟も行なわれています。

サハリンと香港の市場の写真

右写真:香港の市場で、12羽70香港ドルで売られていたシマアオジ(1997年撮影) 写真提供/シンバ・チャン(バードライフ・インターナショナル東京)
左写真:サハリン北部で繁殖しているシマアオジは、日本で繁殖する種と近いと言われ、今後の保全計画に向けた調査が行なわれた

日本国内の保護増殖事業に向けて

罠の写真

2012年に中国警察が発見した密猟現場。シマアオジが大群でねぐら入りするところを狙い、罠をしかけていた 写真提供/シンバ・チャン(バードライフ・インターナショナル東京)

2017年、中国では野生生物保護法が改正され、シマアオジの保護のレベルが上げられました。しかし北海道のシマアオジはすでに危機的な状況です。そこで今年から、バードライフ・インターナショナルと当会、ロシアの研究者でサハリンでのシマアオジの共同調査を開始しました。

サハリン北部で、現在でも相当数が繁殖しているシマアオジは日本で繁殖しているものと同じ亜種と言われており、万一、日本で絶滅した場合に、北海道に再導入しての保護増殖が可能な個体群と考えられます。そのため今回の調査では、北海道のものと遺伝的に同じものかをチェックするために羽毛や血液のサンプルの収集、渡りや翌年の繁殖地への帰還率を調べるためにカラーリングの装着などを行ないました。来年は渡りの経路を調べるためジオロケーターという小型の装置を取りつける予定です。同様の取り組みは、モンゴルやアムール川流域のシマアオジの繁殖地でも始められています。

こうした国家間協働の保護政策がスムーズに行なえるよう、当会ではシマアオジを「種の保存法」の国内希少野生動植物種に指定するよう国に提案をしてきましたが、まもなく指定される見込みです。日本の法律によって保護されている種であれば、今後、遺伝的一致が検証された場合には、サハリンの個体の日本再導入の可能性が見えてきます。また、日中、日ロの渡り鳥条約に基づく国際連携も可能となるでしょう。

NGOが着手したシマアオジ保全の取り組みですが、本格的な保護政策の第一歩を踏み出すことができました。シマアオジが奇跡の復活を果たせるよう、継続して活動を続けていきます。

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