(財)日本野鳥の会自然保護室 浦 達也
現在、地球温暖化防止のための再生可能エネルギーとして、欧米や中国を中心に風力発電が世界各地で導入されています。現在の国内での導入実績は設備容量にして約200万kWで、風車の本数で約1500本です。そして、2020年までに1131万kW(現存する国内最大級の2000kW風車で5655本分)の導入を目指すと、政府は掲げております。このように、近年になり日本でも風力発電の導入が進み、更に加速すると考えられますが、それに伴い、様々な問題が起こるようになってきました。
特に風光明媚な観光地では、風車の設置によって景色が変わるなどとして、自然景観への影響が問題になる場合があります。景観論争では、宍道湖や嫁が島の夕景が壊れるとして島根県出雲市、南アルプスの山並み美しい景色が壊れるとして長野県伊那市の計画が有名です。
風車設置に必要な用地(基礎とその周辺、取付道路、資材置場、組立場など)を確保するために森林伐採、盛土や切土などの土地改変が行なわれ、計画地周辺の自然環境が破壊されることがあります。近年は風車が大型化しているため、山岳地で風車を建設する際には林道を拡張すること
があり、また、大規模なウインドファームでは、改変される土地の面積が大きくなります。
風力発電を設置した後に近隣住民が頭痛や吐き気、不眠などの健康被害を訴える場合がありますが、その原因は風車からの騒音にあると考えられています。風車に関わる騒音には、機械音やブレードの風切音による可聴のものと、人間の耳にはあまり聞こえない周波数80Hz(ヘルツ)以下の低周波音によるものがあります。特に最近は、20Hz以下の超低周波音が風車から出ており、深刻な健康被害をもたらしているとして注目されています。耳に聞こえる騒音はないものの、ずっと健康だったのが風車建設後に具合が悪くなったり、風車から遠くに離れたり稼動していなければ症状が治まるなどから、風車の稼動に伴う低周波音の発生が健康被害をもたらしていると考えられ、稼動時は脳や内臓が内側から揺すられるように空気や建物が振動していると、被害者は言っています。しかし、事業者等が用いる計測器ではこの超低周波が検出できず、または通常の騒音として扱うことで国の設定した基準に当てはまるかどうかで被害の有無を判断し、事業者等は、風車の稼動と健康被害との因果関係は存在しないと結論付ける場合があります。そのことで、被害住民と事業者等との間で摩擦の生じる地域が出てきました。現在、風車による低周波音で健康被害が発生していると考えられる地域は、東伊豆町、豊橋市、田原市、あわじ市、伊方町などがあります。
国内で風力発電の設置数が増えるに従い、風車に鳥が衝突死するバードストライクが報告されるようになりました。風車と野鳥の被害の関係については欧米で研究されてきましたが、最近になって国内でも環境省が中心となり、研究されるようになりました。これら海外や国内の知見から分かってきた、風力発電が野鳥に与える影響等は、下記のとおりです。
単純に言うと、明確な原因は分かっていません。しかし、これまでの研究の中で確認された事実から、以下のことが言われています。
2010年3月末までに当会で把握している国内での野鳥の衝突死の発見事例は、トビ18、カモメ類18、オジロワシ16、カラス類11、カモ類3、イヌワシ1、オオワシ1、その他猛禽類4、小鳥類12、その他海鳥4羽です。
猛禽類の死体発見例が多いのは、小鳥よりも死体を発見しやすいからと考えます。アメリカの実験では、大型猛禽類では1ヶ月以上死体が残りますが、小鳥だと2~3日、早ければその日のうちに死体がなくなるという結果があるためです。小鳥の消失が早いのは、風車周辺のキツネやカラス、トビなどが毎朝、死体を探しにくるようになるからで、トビやカラスで衝突死が多いのはもしかすると、そのことも関係しているかもしれません。
環境省の調査により、風車設置後の事故防止策としてブレードの彩色、ライトアップ、案山子および反射テープの設置の有効性の有無が検証され、風車の配列と立地、弾力的な運用管理、植生及び環境管理のあり方について検討されました。検証結果からは、防止策の有効性について明確な結果が得られませんでした。そこで当会では、バードストライク防止策として①計画段階で計画地周辺の鳥の状況から立地についてよく検討し、②野鳥に影響のあると考えられる場所には風車を建てない、③野鳥への影響が少ないと考えられる場所でも主な飛翔コースと直行しない、海岸線から離すなどなど風車の配置をよく考慮し、④建設後は死体捜索調査やレーダー監視などでモニタリングを行い、⑤渡り時期や事故発生時には風車の運転調整を行い、植生や環境の管理などの防止策を講ずるなど、弾力的な運用管理を行なうことが必要であると考えています。
風力発電は地球温暖化対策に役立つクリーンエネルギーとして世界的規模で導入が進んでおり、国内でも地球温暖化対策推進大綱により導入が推進されている。そして、陸上での建設適地の減少や、沿岸における風況の良さ等から、洋上風力発電は再生可能エネルギーの担い手として、国内でも今後導入が進むと予想されている。すでにNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)により、洋上風力発電の設置可能性の実証実験が銚子市沖と北九州市沖で行なわれており、民間事業者による鳥取市沖での設置計画も浮上している。
ヨーロッパでは導入実績第1位の英国はじめ、ベルギー、デンマーク、ドイツ等で設備容量にして総計2,396MWの風車が既に稼動している(EWEA 2010)。導入量が増えるにつれて、海鳥や水鳥へ影響を与えている事例が報告されるようになってきた。
洋上風力発電施設により影響を受ける鳥類はおもに海鳥全般の他、カイツブリ類、海ガモ類、渡りをする水鳥や猛禽類およびスズメ目の鳥である(Drewitt &anp; Langston 2006)。これらの鳥は、生息妨害による生息地放棄および障壁効果といった影響を受けることが知られている。例えば、デンマークのホーンズ・レフ(Horns Rev)洋上風力発電所ではシロカツオドリ Morus bassanus、クロガモ、ウミガラス、オオハシウミガラス Alca tordaの個体数が、風車建設後に発電所内およびその2~4km以内で減少した。またホーンズ・レフや同国のニュステッド(Nysted)の洋上風力発電所では、施設の存在により渡り鳥の飛行経路の変更、および風車周辺からの忌避があったことを強く示唆する結果が出ている。
陸上の風力発電所と同様の野鳥の衝突死が洋上で起きない、というわけではない。しかし洋上では衝突死個体の回収が非常に困難なため、洋上風力発電施設への衝突死の把握が難しく、ほとんど把握されていないだけである。
野鳥が受ける洋上風力発電施設の影響の大きさには、周辺の地形や沿岸からの距離が関係すると考えられる。一般に、建設場所が採食に適した沿岸浅海域に近いと、採食地間(クロガモ類など)、採食地とねぐらの間(シギ・チドリ類、カモ類)、繁殖地と採食地の間(集団繁殖する海鳥など)の移動経路、海岸に沿った大規模な移動、渡り鳥の離着陸を妨げる可能性が大きい。海峡など移動のボトルネック(隘路)となる場所への建設は、渡り鳥の飛行経路を変更させ、悪天候時は衝突の危険性を高める可能性がある。
また、鳥の種類による飛行特性や周辺における鳥の状況によっても影響の大きさは違う。施設の周辺を利用する鳥の飛行高度が例えば水面から30~120mであれば衝突死のリスクは非常に高まる。採食地や集結地など多数の鳥が集まる場所である場合、生息地放棄などの影響の度合が非常に大きくなる。
以上のような環境影響を軽減するには、立地選定段階で戦略的環境影響評価(SEA)を行い、鳥類への悪影響が大きいと予想される場所では建設を避けることが必要である。イギリスやドイツ、スペインなどのEU諸国では、IBA(重要野鳥生息地)に風力発電施設を建設する場合、事業者は各国でIBAを選定している野鳥保護団体(バードライフのパートナー)に計画についてよく説明を行い、建設への同意を得るように指導されている。
日本ではまだこのような認識は進んでいない。今後、洋上風力発電施設から野鳥が受ける環境影響を軽減するには、マリーンIBAの選定を進めることにより、重要海域に対する行政や事業者の認識を高めてもらうことが必要であると考えている。
この文章は、日本野鳥の会 札幌支部報(2010年7月号)に寄稿した内容を増補したものです。
野鳥と風力発電
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